ギャンブラーの描く夢とは
勝負師たちの夢の一つが、オイルダラーで潤うアラブの王族相手に、信じられないハイレートのゲームで、思う存分腕を振って大金を巻き上げるというものがあります。しかし王族・富豪たちとてバカではありません。彼らがプライベートマッチに呼ぶのは、それこそ競技において「世界最強」あるいは「帝王」と呼ばれるような選ばれしプレイヤーだけなのです。富豪たちも、よもや頂点を極めたプレイヤーに勝てるとは思っていないでしょう。しかし、それでも「自分は世界最強のプレイヤーと対戦した」と自慢するために帝王たちを呼ぶのです。まさにカモネギ状態。それが列をなして帝王を訪問してきます。
しかし、その帝王の地位につくこと自体、大変な偉業です。またその地位を守ることはもっと困難を極めます。彼にとって代わろうとする、トッププレイヤーたちを迎撃しなければならないからです。ポーカー小説の傑作『シンシナティ・キッド』などは、まさにこの頂点を守るものと挑むものの苛烈な戦いを描いています。
さらには帝王とて、カモに手玉にとられることだってあります。バックギャモンのドイツ人のフィリップ・マーモルスタイン(Phillip Marmorstein ・ 98年の世界チャンピオン)にはこんなエピソードが残されています。
世界チャンピオンが完敗してしまった理由とは
アラブの王族の1人からプライベートマッチに招待されたフィリップは早速現地に飛びます。初日、なんとフィリップは3千ドル負け越してしまいます。しかしこれは、わざとカモに勝ちを譲り、調子付いた相手にレートを上げさせてから、逆襲するという勝負師の常套手段。2日目、作戦どおりフィリップは10万ドルの大勝!!!しかしここで思いもよらぬことがおきました、なんと相手の王族が「金は絶対に払わない」と言い出したのです。勝負の精算金を踏み倒すという最低の背信行為! しかしここはなれない異国の地。しかも地元の有力者がこう開き直ってしまっては、一介のバックギャモンプレイヤーに対抗できる手段はありません。泣く泣く10万ドルをあきらめたフィリップは、初日に奪われた3千ドルを返してもらうのが精一杯でした。
しかし悲劇はこのあとに待ってました。失意のままにドイツに帰ってきたフィリップは、空港で持ち帰った3千ドルを当時の通貨であったマルクに換金しようとしました。途端に、警備員に取り囲まれ別室へと引き立てられるフィリップ! そうです、なんと王族が返してきた3千ドルはなんと偽札だったのです! 泣きっ面に蜂とはまさにこのこと。ゲームのエキスパートも王族の仕掛けた盤外戦術にまんまと完敗してしまったというわけです。
本日の関連・参考サイト
・競技ゲーム高額賞金ランキング・バックギャモン世界選手権
・ラスベガスで頂点に立った男