『シンシナティ・キッド』 スタッド・ポーカーの苛烈な頂点の戦い

シンシナティ・キッド
リチャード・ジュサップ著
真崎 義博・訳
扶桑社
¥620
スティーブ・マックウィーン主演による同名タイトルで映画化もされている古典的名作。シンシナティの街で最高のスタッド・ポーカープレイヤーといえばキッド。いつしか人は彼をシンシナティ・キッドと呼ぶ。

ある日キッドにビックチャンスが訪れる。スタッド・ポーカー界の頂点に君臨する帝王(ザ・マン)ことランシー・ホッジスがこの街を訪れているという! 色めき立つ若きキッド。ランシーとの仲介役をかってでた親友シューターは、だが帝王の帝王たる強さの根源、その守るべきものの大きさにについて忠告も忘れなかった。


「彼は帝王なんだ、わかるか?カードをやる連中なら、負けることがわかっていても彼を招待したりするんだ。彼とプレイしたんだと人に自慢するためにな。(中略)

だが、成金連中はおまえや俺を、ぜったいにゲイムにはいれまい。彼が帝王だからだよ。」
 

クライマックスはもちろんキッドとランシーの一騎打ちだ。だが前半部分がいい。決戦を前にしての数日間、キッドはカードから離れて体調と精神の充実の為に時間を過す。しかしキッドをしてもビッグマッチを控えては落ち着かず煩悶と時間を過さなければならない。その様子は淡々と描写されキッドの人間味を浮かび上がらせる。

また会話がいい。登場する一流のプレイヤー同士の会話は対戦相手への敬意があり、抑制が効いている。だがその裏には「必殺」の意志が秘められていることは明らか。さながらそれは高貴な精神を持ちつつも戦場に赴く騎士を思わせる。剣の代わりにカードを、血の代わりにチップを携えて男達は決戦のテーブルでまみえる。

炎の色が透明に近い白のとき最も高熱を発するように、物語全体を覆う静謐なトーンがむしろこの小説の凄みを際立たせている。

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