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裁量労働制というゲーム業界の爆弾(2ページ目)

2008年6月16日、テクモ社員2名が会社を相手取り、残業代が支払われていないとして訴訟を起こしました。その背景にある裁量労働制という仕組みには、ゲーム業界全体に関わる問題が潜んでいるようです。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

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ゲーム開発を管理するのにはぴったりの制度

早めに帰る開発者の図
椅子のベッドで仮眠は基本ですね。なかなか家に帰れない人もいれば、仕事が終わって早めに帰る人も。
裁量労働制の非常に大きな利点は、人件費管理が楽な点です。ゲーム業界の開発というような特殊な仕事だと、必ずしも毎日同じ時間に行って、同じ時間に帰ってくるというような仕事の仕方は難しいこともあります。例えば、開発の中でも、グラフィックを担当する人達というのは、開発半ばは猛烈に忙しいのですが、終盤になるとほとんど仕事がなくなることがあります。絵が全部ゲームの中に組み込まれて、バランスを調整したり、バグを取ったりする作業になると必要なくなるからですね。

じゃあ、グラフィックを作りこむ間は遅くまで残業して、終盤にかかったらあまり会社に来なくていいですよ、という風にする場合に、裁量労働制なら細かく残業状況をチェックしたり、振り替えの計算をしたりしなくてすむわけです。管理をするというのは即ちコストそのものですから、これがなくなるのは単純に会社全体にとっていいことですね。

ただでさえ忙しいなか、毎日の労働時間の申請を細かくしなくて良いのは、働く側にとっても無駄が無くて合理的です。めまぐるしい作業の中、いつどれだけ残業したかなんて覚えてないよ! なんてことはゲームに限らず忙しい現場ではよくあることですよね。さらには、経営という視点で見ても、人件費のコントロールがしやすいという大きな利点があります。

何かいいことずくめのような気もする裁量労働制、そこに問題は無いのでしょうか?

裁量労働制は高騰する開発費を誤魔化し得る

HD機とSD機の図
特にPS3やXbox360のように、HDに対応しているゲームの開発費高騰が顕著であると言われています。
この裁量労働制を採用するゲーム会社というのは、随分増えてきていますが、その背景には開発費の高騰が関係していると思われます。ゲーム業界において、開発費とはほぼ人件費です。面白いゲームを作るためには、最終的には才能に溢れる優秀な人材を、できるだけたくさんの人数で、長時間拘束して作るしかありません。特に、ゲームに使われるメディアの容量が大きくなって、1つの商品につぎ込むデータの量が増えていけば、それは顕著に人件費へと反映されます。

そういった背景の中、残業をしても人件費に反映されない制度があれば、当然コスト削減になりますよね? 管理費と人件費が一気に削減されるわけですから、一石二鳥とはこのことです。しかし、これでは働く方はたまったものではありません。カットされたコスト、とくに人件費の方は残業代そのものなのですから。

本来、労働時間の変動が激しくて管理が困難な場合に使い、忙しい時間と会社にいなくても良い時間の帳尻が大体あっていれば、至極合理的な仕組みです。しかし、作業が膨大化し続けている現状のゲーム業界の中で採用すれば、場合によっては残業代カットの口実にしかならない場合もあります。そして実際に、実情とあまりに違い過ぎるということで訴訟が起きたのがテクモの例だというわけです。

裁量労働制はとても便利な仕組みではありますが、1歩間違えば大きな爆弾を抱えることにもなります。
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