男子シングルス(1)
不安のあった右足首の炎症は、トレーナーの永井義人のケアにより、日に日に引いていった。足首をかばうことで微妙に崩れていた身体のバランスも徐々に修復され、松下浩二(ミキハウス)のプレーはしり上がりにキレを増した。
今大会、何より目を奪われたのは、松下の攻撃力だった。変化の激しいバックサービスで相手をてこずらせ、正確無比な3球目攻撃を見舞う。それは攻撃選手を唸らせるほどの鋭さがあった。
ベンチコーチの高島規郎は言う。「40ミリボールの攻撃のコツをつかんだんですよね。カーブドライブを身につけましたから。いままでは直線的なボールだけだったんですけど、幅ができたんです」
大会前、徹底的に繰り返した練習の成果が、戦術の幅を生んだ。最大のヤマとみていた加山兵伍(グランプリ)をカットで粘り倒したかと思えば、三田村宗明(青森大)、遊澤亮(東京アート)には、鋭い攻撃をまじえ、完璧に封じた。
しかし、決勝の木方慎之介(協和発酵)戦は、松下も高島も「苦しい」とみていた。木方はカット打ちを得意としており、2002年1月のジャパントップ12で負けたほか、練習試合でもほとんど勝ったことがない。
だが、決勝という大舞台での役者は、松下が上手だった。
「ポジティブにいったのがよかったですね。彼は決勝戦、初めてですから、少なからずプレッシャーかかってると思いますし、大事にくるだろうなと思ってましたので、1セット目から積極的に攻撃をしかけていったんです。まあ、うまく当たりました」
2セットを先取して優位に試合を進め、3-2とリードした6セット目、10-7でマッチポイントを奪った。しかし、10-9と追い上げられる。ここが勝負所だと直感した松下は、頭を冷やすためにタイムアウトをとった。
ベンチでの1分間、「大丈夫、返球できてるから」といった高島の「言葉のシャワー」を浴び、やれる、と思った。そして、再開後の1本に「今大会の最後の気力を振り絞った」という。