練習会場にはいってしばらくすると、武田、川越がダブルスの練習をはじめた。サービス、レシーブからのパターンを丹念に繰り返していく。
「武田、サービスのあとの逃げがちょっと遅れるときがあるで」などと、時折、高島氏から修正ポイントの指示がある。こころなしか、遠慮がちなプレーが見受けられる。試したいことを存分に試していないかのようなのだ。それは、左隣りの卓球台で、明日対戦する中国ペアの孫晋と楊影が練習をはじめたからかもしれなかった。
「ちょっと意識しているんですかね」
「そうですね、意識しているんじゃないでしょうか」
高島氏の答えに私はほっとした。意識しているのは、勝ちたいという気持ちのあらわれでもある。
一方の中国ペアは、いつもそうしていたように、身体をほぐす程度に軽くボールを打っている。孫晋は陽気な性格なのか、よく話しかけ、よく笑う。聞き役の楊影はひたすらあいづちを打つ。日本ペアのことは眼中にないようだ。もちろん銅メダルで満足したからであるわけもなく、横浜でのグランドファイナルの決勝で圧倒した相手なのだ。意識の俎上にのらないのは、当然といえば当然なのだ。
「なにか対策のようなものはあるのでしょうか」と高島氏に訊ねた。
「早いピッチの対策はしてきましたので、横浜のときよりはいい戦い方ができると思うんです。作戦としては、『スタートからダッシュだ。強い相手でも追い上げるのはしんどいんやから』と言ってあるんです。『勝ち負けもあるけど、準々決勝までよりもいい卓球をしよう』と」
1時間ほどダブルスのチェックをして、武田と川越の練習が終わった。
「じゃあ、行きましょうか」と高島氏が言った。
「お願いします」と私は頭を下げた。
高島氏からじっくりと話を聞くことになっていたのだ。
練習会場から見える風景(13)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。