期待どおりの新王者誕生~男子シングルス~
例年にまして熱闘が演じられた全仏 |
ナダルの優勝は、単に“若さ”と“勢い”がもたらしたものではなかった。その落ち着いた戦いぶりは、すでに世界のトッププレーヤーにふさわしい風格をも備えていた。17歳のころから、すでに将来有望視されていたナダルだったが、今年になってその実力がようやく爆発的に開花したと言えよう。
今年2月のコスタ・ド・サイペ(ブラジル)で今シーズン初のタイトルを獲得し、続くアカプルコ(メキシコ)の大会でも優勝。3月には、マイアミ(USA)の決勝でロジャー・フェデラーをマッチポイントまで追い詰めた。4月のクレーシーズンに入ってもナダルの快進撃は止まらず。モンテカルロ(モナコ)、バルセロナ(スペイン)と優勝、そして全仏直前の5月上旬に行われたローマ(イタリア)の大会でも優勝を果たし、一気に全仏の優勝候補に躍り出た。
その好調さを維持し、6月3日、19歳の誕生日を迎えたナダルは世界?1のフェデラーと準決勝を戦った。そして、ナダルは男子テニス界に君臨する王者フェデラーの力を完全に力を封じ込めたのだった。クレーというサーフェスは確かにナダルにとっては有利な条件。しかし、それ以上にナダルのショットの強さはフェデラーをもってしても押さえ込むことができなかった。
そして決勝の相手は、アルゼンチンのマリアノ・プエルタ。準決勝では、ロシアのニコライ・ダビデンコに6-3、5-7、2-6、6-4、6-4のフルセットの末、逆転で決勝に進出した。プエルタは「ファイター」というあだ名がからも分かるように、最後まで決して諦めずに戦い抜くことがプエルタの持ち味。2003年10月、急性の喘息のために医師から処方された薬に含まれていた成分によって、ドーピング違反となり、9カ月の試合出場停止の処分を受け、昨年8月には400位台にまでランキングを落としていたが、そこから再びはい上がってきて、決勝までコマを進めてきた。
決勝は、第1セットから大接戦となり、プエルタが7-6(6)でものにした。ナダルはプエルタのアグレッシブなプレーに「第1セットを取られたときは、負けるんじゃないかと思った」と振り返る。しかし、第1セットを取られながらも第2セットから6-3、6-1、7-5で逆転し、全仏初出場で初優勝を果たした。
ナダルは「とてもハッピーだ。信じられないような出来事で、どうやって今の気持ちを表現していいか分かりません。まるで夢のようです」と優勝のスピーチで興奮しながら語った。一方、準優勝のプエルタは「優勝はできなかったけど、この場に立てて優勝したのと同じくらいうれしく思っています」と喜びをかみしめた。
大会2週間ナダルのプレーを振り返ると、その若さに似合わず実に冷静な試合運びだった。ナダルのプレーは「がむしゃら」というような荒々しいものではない。ダイナミックなフォームから繰り出されるショットは、ミスの少ない確実なものだ。また、コート上でのナダルのマナーの評価は高く、フェアプレーの精神にも富んでいる。
若き新王者ナダルは、テニス界の頂点に立つにふさわしい人格と精神力をもすでに持ち合わせている。今後が楽しみでたまらない逸材が出てきた。