注目すべき“日本人レスラーの晩節とそのハンドリング”
見事な散り際で、その価値を高めた広田さくら。後楽園ホールに舞った桜は感動の一言 |
G:そうですが、突然どうしたんですか?
J:WWEのトップスターなんかは、必ず個人のヒストリーDVDがありますけど、女子プロレスでデビューから引退までの足跡を納めたヒストリーDVDを出しているのって、広田さくらだけだと思うんですよね。ジャガー(横田)も長与(千種)も北斗(晶)もない。これってもったいないですよね。
W:確かにそうですね。まあ、男子プロレス以上に、引退というラインが曖昧だったというのもありますけど・・・。
G:広田さくらさんは、本サイトでもコラムを執筆して貰っていますが、私個人としては、彼女の引退という散り際は実に見事でした。ガイア最後の日、後楽園に舞った桜の花びらは、私がこれまで観てきたプロレスの感動名場面でベスト5に入ると思っています。
W:その広田さんのDVDって、かなり売れたみたいですね。ガイドさんが言うように、散り際の見事さが、彼女の価値を高めた感じですよね。
J:現役選手で言えば、アジャなんて全女編2本+アルシオン&ガイア・ジャパン編1本の3本組DVDがあってしかるべきだと思うんです。でも、それは商業ベースで考えると厳しかったり、権利の問題なんかもある。
W:権利元を調べるだけでも、骨が折れそうですが・・・。
J:それでも、プレイヤーへのリスペクトとして、また、資料価値としても偉大な選手のヒストリーはなんらかの形で残すべきものであると僕は思うんですよね。
G:その実績や功績を考えれば当然でしょうけど、残念ながら現役選手では誰であれ商業ベースに乗る気がしませんね。これは、既存のベテラン選手が、然るべきタイミングで引退し、後進に道を譲る・・・。これが出来なかったが故に、知らず知らずのうちに自分の商品価値を下げるところまで下げていた、その負債でもあります。
J:まったくその通りですね。同じ晩節を汚すのなら、ジャンルのためにとことん汚して欲しいというか。誰が見ても汚れているのに、本人だけキレイであろうとするのはあまり美しくないですね。
W:まあ、今更どうにもなりませんが、ここを前向きに捉えると、どうなりますかね?
J:女子はある程度のスパンをかけて“滅びの美学”を見せた人がいないので、そこにレスラー人生としての晩節を懸けてほしいですよね。日本人のメンタリティとして、絶対支持されると思うんですけど。
G:それは、ボロボロになって、燃え尽きるまで自分を曝け出して闘えということですか?
J:基本的にはそうですね。昨今では、「引退します」→「カウントダウンやります」→「引退興行です」って、無難に自分を飾って、そのキャリアを終わろうとしている選手も多いじゃないですか?
W:今の女子プロ界では大した意味を持たないかもしれませんが、商業的でもありますよね。Jさんがおっしゃった様に、未だに、自分だけキレイであろうとする選手は多いですよ。
J:そうなんです。何が言いたいのかと言えば、生き様は間違いなくシュートじゃないですか?やっぱり我々からすれば、そこを見せてほしいというのがありますよね。「そこまでプロレスに懸けていたんだ!」、「そこまでしてプロレスを続けたかったんだ!」って。
W:「そろそろ潮時だから、引退しよう」ではなくて、「プロレスを続けたいけど、ここまでボロボロにされたら引退せざるを得ない」。逆に、そこまで意地や生き様を見せ付けられたら、応援せずにはいられませんよね。
G:その場合、介錯をする選手も非常に大事ですね。残された選手はかつてない重責を背負うことになり、まさに本当の世代交代となる。だって、“世代交代マッチ”で本当に世代が変わったことなんてないですから。
J:男子で言えば、90年初頭のG1で長州力が全敗した時とか、橋本(真也)に蹴り潰される姿にみんな感情移入をした。今にして思うと、引退に向けたいい流れだったと思うんです。
W:その後、ロングカムバックを果たしましたが、あの姿を見て何も感じなかった人はいなかったでしょうしね。
J:最初の話に戻りますと、ベテラン選手については最近、男子にも同じような兆候を感じるようになっていますが、“日本人レスラーの晩節とそのハンドリング”。今後も、ここには注目していきたいですね。
G:その視点は一つの見所でもあります。順番に引退を発表しては、仲の良いレスラーだけ集めて引退興行をやる。そうではなくて、長くリングで闘い続けたのだから、少なくとも惰性や副業、馴れ合いで現役を続けた訳じゃないというところを見せて欲しいですよね。
次回へ続く―