西日本ボクシング協会・辻本章次会長に聞く「ボクシングを敵役にしたような取り上げ方は困る」
----まず今回の通達を耳にして、通常K-1や PRIDEなどの新興格闘技イベントを取材してくる側としては非常に驚いたのですが、一体どういう契機でこの通達が出される事になったのでしょう?
辻本「まず、選手の健康の問題があるでしょうねえ。A級のボクサーと言うのは、有名になるまでに(頭部などのダメージの蓄積で)痛んでるもので、それをちょっと名前が出ているからといって、慣れないルールで闘わせてもボロボロにされるだけなんで。四回戦ぐらいの子が(競技を)変わるのは自由やと思います。個人の選択の自由を奪うという気持ちは全然ないんです」
----なるほど、あくまで健康問題が第一だと。ただボクシング界でも一回引退した選手や、ダメージで長期休養した選手が復帰してくる例はあるじゃないですか。それを認めている流れからすると、少し奇異にも映る気がするんですが。
辻本「やっぱりスポーツとして違うものやからね。スポーツとしての質がね。ガードの仕方も判ってないのに頭を足で蹴られたりして、簡単にもろてダウンしたりするのは面白いかもしれないけど。蹴りには素人と一緒でしょ。それどころか痛んでる部分があるから、素人より危ないですし。僕らが現役の頃でも(70年代)キックボクシングが人気になって、世界チャンピオンの西条正三(元世界フェザー級王者:藤原敏夫とキックボクシングで対戦。戦意喪失負け)とかが行ったけど、ローキック貰ってぼろぼろになってね。あの頃にもキックに行く選手からはライセンス剥奪とかになってたはずです」
----ということは、今回の通達は、あくまでライセンスを返上した“元”ボクサーの復帰に関する物でしたが、元々現役選手にはプロの別競技に行った段階でライセンス剥奪という処分があるんですね。
辻本「そのはずです。確認とかはしてませんけど」
----海外の選手では、マイケル・ベルナルド選手などはWBFのヘビー級王座を獲得してますし、K-1に一戦だけ参戦したシャノン・ブリッグスなんかは、その後もボクシングの試合をやっているそうですが。日本と世界では明らかに取り組み方が違うのかなと思ったりするんですが。
辻本「まあ、海外の事はいいと思うんですけど。あくまで日本では、こういう考えですということなんで」
----まあそれはそうでしょうね。まあこれも海外の例ですが、最近になってWBCではムエタイの王座を認定してますし、JBCでは認可していない女子ボクシングも認めています。この辺との乖離は気にならないですか?
辻本「えー、WBCがですか。キックを? その例は知らなかったな。初耳です。僕個人は、女子はあくまでボクシングでなら構わないと思うんですけどね。ウチのジムにも女子の練習生もいますし。まあ勝手に個人でそう言う事を言ったらいけないでしょうけども」
----なるほど、こういう制度を採用しようと言う議論は以前から、協会内では持ち上がっていたんですか?
辻本「そうやね。これまでもいろいろ話題にはなっていたんですけど、最近K-1とかに行って惨めな負け方をしてるボクサーが増えていると聞いてまして、何か対策をせなかんなということで、こういう形にね」
----実際、鈴木選手や大東選手がこの間のK-1MAXに転向して負けているんですが、会長は実際にあの大会はご覧になりましたか?
辻本「いや、僕は見てないですね。ちょうどああいう放送は夜にやるでしょう。ジム(辻本氏は江坂ジム会長でもある)が練習をやっている時間なんで見てないです。後で見たと言う人から聞いた話です」
----理事会での他のジムの方とかの意見はどのような物でしたか? やはり満場一致での決議だったんでしょうか?
辻本「そうですね。大体みな同じ意見でしたね。ローキックで簡単に倒されたりして、スポーツとしての質が違うだろうと。それに放送では、元王者をあたかも現役の王者のように言って、現役チャンピオンがやられた、みたいな事を言って囃し立ててもいるようだと。選手個人が闘ってるというより、ボクシングを敵役にしたような取り上げ方もしているんで、それは困るなと」
----それはこういうケースでの一番良くない面だと僕も思います。個人の敗戦がジャンルの勝ち負けのように言ってしまうやり方というのは、批判されても仕方が無いでしょうね。さて今後なんですが、先行して西日本ボクシング協会でこの制度が施行されたわけですが、今後この考え方は全日本ボクシング協会でも採択されるんでしょうか。
辻本「されるんじゃないですかね。12月の23日に今度は全日本の理事会があるんで、議題に上がるはずです。特に他所と話したと言う訳ではないですけど、多分その方向で進むと思います。」