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十年越しの対決=U という名の大河物語最終章へ 田村vs桜庭は「Uの墓標」か?(2)(3ページ目)

PRIDE29ではついに桜庭が、田村との対戦要求をぶちあげた。二年越しの、いやUインター時代からはほぼ十年越しのこのラブコールの秘める歴史と今後の展望。

執筆者:井田 英登

PRIDEの“異物”としての田村潔司

そして、昨日まで田村を押し上げていた上昇気流は、UWFイズム全体に対するアゲンストに転じた。

あえてその強風に背を向け、RINGSという牙城に立て篭って、「回転体」(U系の選手が関節をとりあってめまぐるしくグラウンドを動き回る、田村の理想とするUWF的攻防)の美学を守り通そうとした田村の頑な確信は、移り気なファンの気分の変遷によって取り残されることになる。

PRIDEが日本に持ち込んだ「VT=最強者の決定装置」というイズムの前に、Uの“魅せる要素”優先の攻防は、あっという間にオールドスタイルとなりつつあったのだ。

このとき図らずもUイズムの抹殺者として働いたPRIDEの興隆は、田村にとってやはり認めたくない悪夢であろう。桜庭や高田ら高田道場勢はもちろん、時代の趨勢に押されるようにRINGSで同じ釜の飯を食った金原弘光や山本宣久などもPRIDEの渦に巻き込まれ、UイズムからVT至上主義の軍門に下っていく。PRIDE参戦に関して常に田村が複雑な逡巡を繰り返す意味は十分にわかる。まして、その躍進の最大の推進力となったのが、同門の桜庭である事を考えれば、彼との対戦を安易に受諾できない気持ちも決して不可解とばかりは言えないのではないだろうか。

いささか穿った言い方をすれば、田村ほどVTに「真剣勝負の重さ、ヤバさ」を感じている選手は他には無いとも言えるだろう。だからこそ、彼のPRIDEでの戦いは常にイズムのぶつかり合いとなり、その流れの中にすんなりと取り込まれまいとする田村の対抗が際立つ結果に終わっている。

正面から挑んで撃破された特攻隊的な覚悟のヴァンダレイ・シウバ戦のあと、田村の闘ったPRIDEでの四戦は、いずれも“最強決定装置”としてのPRIDEを、彼なりの美学で染め変えようとする試みであったように、僕には思えてならない。

まず、DSEが復帰戦の対戦相手として提示した三人の中から、田村の希望で決まったというボブ・サップ戦などは、90キロに満たない田村からすればほとんどあり得ない試合である。突進力を備えた120キロの肉塊と、田村が理想とする「回転体」の攻防など望むらくもない。にもかかわらず、田村はその対戦を自ら選択したといい、事実ほとんどダンプカーと正面激突するようにして敗戦を喫してしまっている。これも、僕には「ファンに対する奇妙な謎掛け」を好む田村の、お得意のミステリーに映るのだがどうだろう?

「黒ヒゲ田村の悪役志願? 謎は深まる…」に続く
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