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十年越しの対決=U という名の大河物語最終章へ 田村vs桜庭は「Uの墓標」か?(3)

PRIDE29ではついに桜庭が、田村との対戦要求をぶちあげた。二年越しの、いやUインター時代からはほぼ十年越しのこのラブコールの秘める歴史と今後の展望。

執筆者:井田 英登

「PRIDEの“異物”としての田村潔司」に戻る

黒ヒゲ田村の悪役志願? 謎は深まる…

続く2003年8月のミドル級GPでも、田村の謎掛けは続く。

桜庭と並ぶ日本人トップスター選手吉田秀彦との対戦をオファーされながら、大会直前まで出場意志を明らかにせず田村は“逃げ回った”。こうした行動をとっても、単なる対戦拒否とは取られないのが、田村という選手の不思議な部分ではある。対するDSE榊原社長は、ヴァンダレイ戦同様、田村のセンシティブな気性を慮りつつ粘り強い交渉を続け、「まるでストーカーのようだ」と呆れられつつも、田村の出場を取り付ける。

しかし、当日会場に現れた田村は、自らのトレードマークであるテーマソング「Flame of mind」のアレンジを奇妙に変え、珍しくヒゲを蓄えた、非常に違和感を感じさせる入場を行ってみせた。これまでの田村は、あの特徴的なリング中央での四方への礼に見られるように、自己の美学を貫いたスタイルを固持し続けて来た選手。立ち居振る舞いまで完全に型にはまった、彼の入場を見慣れたファンにとって、この“異変”はなんらかのサイン=謎掛けと一発でわかっただろう。(ここでヒゲ=悪役という解釈を持ち出すのはヒッチコックのサスペンス論じみて、あまりにスポーツを語るには不適切な推論かもしれないが、どうしてもその類似が僕には思い起こされる。)

試合内容を見ても、強烈なローで吉田の膝を破壊寸前まで追い込みながら突如グラウンド戦に入り、ほぼ無抵抗に吉田の必殺技袖車に散った田村の闘いぶりの不可解さだけが残るものだった。

それらの絵解きができるような決定的な要素は僕にはないが、個人的な感慨としては、「世界最強」という価値観のみを追求し、勝者にすべての栄光を与えるPRIDE=VT的世界観に対して、のどに刺さった小骨のように執拗に違和感を主張し続ける、田村流のレジスタンスではないのだろうかという印象を受けた。

その姿には、かつて新日本プロレスとの対抗戦、すなわち「旧プロレスとの混交」を拒み、孤独な戦いを挑んだ田村自身の姿がオーバラップする。そして今、再びPRIDE、すなわち「VT/MMAとの混交」を奇妙な形で拒んでいるのが現在。田村自身のスタンスは何も変わっていない。ただ時代と、そしてファンの認識が変わってしまったのだ。

例えばサップ戦では、体重差のある無差別戦のナンセンスを体現することで、逆説的に「真剣勝負」のあっけなさ、奥行きの無さを体現していると感じたし、吉田戦でもフィニッシュ後の堅く無表情な態度に、“オレの勝利などあなた方は望んでいなかったのだろう”という田村のネガティブな波動を感じてならなかった。
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