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K-1 MAX世界王者・魔裟斗とライバル達の光と影 「魔娑斗~欲望とストイシズム」(3ページ目)

ついに二年越しの世界王座を奪取。今やトップクラスの注目を浴びる格闘家となった魔裟斗。その“成り上がり”を支えた強烈な野心の軌跡と、並み居るライバルを蹴落としてきたエネルギーの源泉を探る。

執筆者:井田 英登


ここが格闘技に限らずプロスポーツ全般に言える難しさだと思うのだが、両者の“負けっぷり”を、客席の/そして全国のTVの前のファンはどう見たのだろうか? 

ハードパンチャーのクラウスとの白熱の攻防を繰り広げ、追い上げ及ばず判定負けとなった魔裟斗は、リング上で涙を流し、そしてセコンドの掛けたタオルに頭を包まれたまま失意の退場を見せている。試合後も「ほんとうに、痛いパンチだった。あれだけ痛いのをもらったことはこれまでなかった。痛くて泣いてたんじゃないですよ。悔しいんだかなんだか…知らないうちに泣いてた。負けて泣くなんて、初めてなんじゃないかな…」というセリフを残し、失意のほどを最大限に語っている。

無論、その言葉に嘘はあるまい。
ただ、僕は彼のその姿に天性の表現者としての才能と色気を感じた。試合の場をリングに限らず、自己表現の舞台と捕らえ、敗北に置いても“魔裟斗”というキャラクターを見る人に印象づけずには置かない。これが“華”というものだろう。

通常、格闘技における敗北は“死”に等しい。だからこそ魔裟斗自身、2月のトーナメントでの勝利では、あれだけ冷酷非情に敗者の小比類巻を語ることが許されたわけだ。しかし、それがプロスポーツである以上、ファンはその姿に物語を求める。もし、その選手の敗れた姿に、一抹の可能性を見いだすことが出来れば、ファンはそれでも敗者に“次”を望み、そして“死”からの復活を許す。

その意味で、魔裟斗のリング上での涙は“次”を望むファンの感情を揺り動かすに十分なものだったと思う。

事実、マスコミは敗れた魔裟斗の「涙」を軸に記事を書き、次なるリベンジへの流れで早々と誌面を飾った。その後、11月にワンマッチとして組まれた、クラウスへのリベンジ戦がドローという結果に終わっても、魔裟斗への支持はもう大きな流れとなって止むことが無かった。一方、負傷治療のため無言で会場を去った小比類巻との格差が広がったことは、その記事の量を見ても、またそのトーンをもってしても明らかだった。

ただ、これらの事実を羅列することで、小比類巻をいたずらに擁護したいわけではないし、もちろん魔裟斗を貶めたいわけでもないことは判っていただきたい。単に試合結果だけでなく、選手の持つキャラクターや、闘いに向かうベクトルの違いと言うものが、大きくその選手の評価を変え、最終的には人生そのものまでも左右するという事を、この二人の選手の軌道から読み取っていきたいだけなのだ。


■「ローキックじゃ倒れないです。走り込みが違います」

二度のクラウス戦でいずれも勝ちを手に出来なかった魔裟斗だが、ディフェンディングチャンピオンとして上がった今年3月の日本代表トーナメントでは、やはり主役の座を譲ることはなかった。

満を持してK-1 Max初出陣を果たした、中量級の最終兵器・武田幸三を決勝で迎え撃ち、“超合筋”の異名を取ったこのハードパンチャーと正面からの撃ちあいを演じ、見事に退けた。クラウスの背中に照準を合わせて、辛苦の一年を過ごした魔裟斗の立ち位置は既に、日本最強の称号すら一ローカルタイトルにしか感じられない高みに自らを押し上げていたのだった。

「やる前はもちろん優勝するんだろうなとおもってたんですけど、結構プレッシャーがかかって。絶対日本のなかでは負けられないなと思ってたから、万が一って考えると、今回は大変でした」と語る言葉にも、既に王者の余裕のようなものが感じられる。鉄人武田に対する印象も「右カウンターの威力がどれほどあるかと思ってましたけど、思ったほどじゃなかった。ローキックは威力がありましたけど、ローキックじゃ倒れないです。走り込みが違います」と、逆に王者の盤石さを強調するものにしかならない。
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