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「野村ノート」を読む(2ページ目)

楽天の新監督に就任した野村克也氏の著書、「野村ノート」が反響を呼んでいる。「ID野球」を確立した氏の野球理論と人間学が綴られた著書を考察する。「野村ノート」を読まずして、「野村監督」は語れないだろう。

執筆者:コモエスタ 坂本

1 「ID野球」はもう古い?


本書で語られるID戦略自体は、確かにもう知れ渡っている部分が多い。投手の投球ゾーンを9×9に分割した分析や、打者の4つのタイプ分けなどは既に有名である。もちろんそれ以上の各論も示唆に富む点が多い。

昨年のロッテ・バレンタインチームが優勝できた一つに、徹底したデータ戦略があげられるだろう。これはある意味ID野球の進化形であると考えられる。すなわち、ID野球自体の真髄は古くなってはいないが、時代はより細部へと突入している印象がある。ともあれ、野村氏の提示する理論は少なくとも「基礎」として古びてはいないと言えるだろうし、まだまだ野球界に残すべきDNAのように思える。

2 面白みに欠ける野球?


野村氏は無意味な「正々堂々」的勝負を嫌う。昨年の巨人-阪神戦において、点差が離れているにもかかわらずフォークで三振を奪った藤川に怒った清原の話を本書でも批判している。このレベルの話ならば頷けるのだが、野球の持つエンターテイメント性やダイナミズム、またスポーツマンシップ的に重きを置いていない面が気にかかる。

確かに「読みあい」のような静的で頭脳的かけひきを主体とする、野村氏の目指す野球は通好みである。しかし果たしてそれだけでいいものだろうか。私にはスポーツという祝祭空間の何ものかを切り落としているような気がしてならないのだ。

3 野村氏の性格?


氏は本書で自らの「性格の悪さ」を認めている。それゆえに本書で語られる「人格」を得るために、相当の努力と知恵を絞ってきたことはよく理解できる。氏が「人格者」とみなされるかどうかはさておき、野村氏の積み上げてきた「格」は肯定すべきだろう。プロ野球史上最高の捕手であり、またリーグ優勝5回・日本一3回という偉業を成し遂げた大監督なのだから。

監督適性という意味で語れば、大いなる弱点が一つある。「野村再生工場」と評されるように、限定的だったり埋もれている能力を持つ選手の力を引き出すことは得意だが、逆に天才型選手を生かすことが苦手だ。本書でも述べられているが、例えば阪神の今岡などは、野村時代にあまり生かされなかった選手だ。

本書ではID戦略の範疇で収まらない、野球における「理外の理」を、人間論・組織論・監督論で補っている部分がある。この部分で言えば、半分は興味深く、もう半分は首をかしげる印象なのは否めない。自らを「月見草」と語る氏だが、やはり野球世界における「陽」の半分をばっさり切り落としており、「陰」の半分だけ深く掘り下げているとしか言いようがないのだ。本書でも述べられるように、「性格は変わらない」し、それは是々非々で捉えられるべきものだろう。
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