ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

栗本薫の遺したもの(2ページ目)

多彩な分野で活躍した作家・栗本薫が5月26日に亡くなりました。その超人的なまでの業績を辿ります。

執筆者:福井 健太

栗本薫のミステリー

『黄昏の名探偵』
大正時代を舞台にした書き下ろし短編集。著者のオリジナル曲をモチーフにした5編が収められている。
探偵小説専門誌『幻影城』の評論賞に佳作入選し、江戸川乱歩賞で小説家デビューを遂げたように――著作に占める割合はさほど高くないが――栗本薫は(当然)ミステリー作家でもある。"栗本薫"(ただし性別は男)が活躍する〈ぼくら〉シリーズで登場した栗本は、当初は青春ミステリーの旗手と目されていたのだった。

そんな著者が最も愛用した探偵役が、25作の長編と4冊の短編集の主役を務める伊集院大介である。長唄の名家で起きた連続殺人を描く『絃の聖域』で初登場した伊集院は――『優しい密室』『鬼面の研究』『猫目石』を経て――第5長編『天狼星』で宿敵"シリウス"に出逢い、多くの長編において対決を重ねていく。これは著者の大河ロマン志向の反映に違いないが、他にも『猫目石』や『怒りをこめてふりかえれ』で"栗本薫"との共演を果たすなど、キャラクター小説の色彩が強いのも特徴と言えるだろう。精緻なトリックやアイデアではなく、お約束や雰囲気を重視する"読み物"にこだわることで、著者は〈伊集院大介〉シリーズという蠱惑的な異空間を築いてみせた。そこには江戸川乱歩や横溝正史が醸した"あの"浮世離れした空気が立ち込めているのだ。

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