新感覚ミステリーの俊英・初野晴(2ページ目)

ファンタジックなタイムトラベル・ミステリー
『トワイライト・ミュージアム』

脳死状態の少女の魂を救うため、少年と学芸員は中世へと旅立った。魔女狩りとの闘いを描くＳＦミステリーの野心作。

初野晴の最新作『トワイライト・ミュージアム』は、タイムトラベルを軸にしたファンタジックなＳＦミステリーだ。養護施設で育てられた14歳の「僕」こと勇介は、自分を引き取ると同時に急逝した大伯父・如月教授の博物館を相続し、そこで秘密裏に行われていたプロジェクトを知らされる。脳死患者の意識は別の次元で生きており、その精神を連れ戻すことで救出できるというのだ。過去を彷徨う魂を守るため、勇助と学芸員の枇杷は魔女狩りが横行する中世ヨーロッパへと旅立つのだが……。

魔女裁判にかけられた少女・ナナを救うための冒険は、魔女探索人のトリックを見破るミステリーへと収束していく。現代人を特殊な環境に投入し、その時代（および場所）ならではのドラマを展開するのはタイムトラベル譚の王道にほかならない。脳死患者にまつわる設定や"移動方法"は冒険譚のための方便なので、そこに――たとえばタイムパラドックスの存在などを――突っ込むのは野暮というものだろう。現代日本の少年が魔女狩りに立ち向かう様を虚心坦懐に楽しむべき１冊なのである。

【関連サイト】
・初野晴（Ｗｉｋｉｐｅｄｉａ）…ウィキペディアの「初野晴」の項目です。