歴史改編SFミステリー
『ユダヤ警官同盟』の魅力
ユダヤ人の自治区で麻薬中毒者が殺された。事件が揉み消されようとする中、殺人課刑事ランツマンは執拗な捜査を続けていく。今年度最大級の話題作だ。 |
ルーズベルト政権下で検討された"亡命者の受け入れ案"が(現実の歴史に反して)実行に移された結果、アラスカ州に近接するバラノフ島はユダヤ人の住む"シトカ自治区"となっていた。その中心都市・シトカの安ホテルで麻薬中毒者が射殺され、そこに住んでいた酒浸りの中年刑事ランツマンが捜査を始めるものの――米国への島の返還を目前にして、周囲はまともに対処しようとはしない。事件を隠蔽しようとする勢力に抗いつつ、ランツマンと相棒のベルコは奮闘を続けるのだが……。
本作がSFと見なされた最大の要因は、歴史改変に基づく都市の存在にほかならない。つまり――さほど複雑な設定もないので――SFに苦手意識がある読者でも、ハードボイルドとしては支障なく楽しめるはずだ。SFとハードボイルドを融合させたストーリーは、ユダヤと故郷にまつわる重厚なテーマへと収束するが、この柔軟性と多層性はまさに著者の真骨頂。コーエン兄弟による映画化(予定)も楽しみな限りである。
【関連サイト】
・マイケル・シェイボン(Wikipedia)…ウィキペディアの「マイケル・シェイボン」の項目です。