稀代の奇想作家・浅暮三文
聴覚の発達した男・立花誠一は、その能力を活かして失踪した女の行方を探っていく。第56回日本推理作家協会賞受賞作。 |
浅暮の作風は多岐に渡っているが、代表作には〈五感〉シリーズを挙げるのが一般的だろう。このシリーズでは人間の五感がモチーフになっており、『カニスの血を嗣ぐ』では嗅覚、『左眼を忘れた男』では視覚、『石の中の蜘蛛』では聴覚、『針』では触覚、『錆びたブルー』では"第六感"が精緻に表現されている。題材に応じて舞台や登場人物を変えていることは、浅暮の小説観――あるいは優先順位の反映にほかならない。特定のスタイルに縛られないからこそ、そこではモチーフが最大限に活かされるわけだ。まだ味覚にまつわる物語は上梓されていないが、これがアベレージの高いシリーズとして完成することは間違いないだろう。
次のページでは『実験小説「ぬ」』と『ぽんこつ喜劇』を御紹介します。