東欧を舞台に"冷戦"を辿る
異色の警察小説シリーズ
東欧の小国で頻発した難事件。捜査はやがて国家の闇へと繋がっていく。冷戦下の"東側"を描く〈ヤルタ・ブールヴァード〉シリーズ第2弾。 |
著者はアメリカのヴァージニア州で育ち、チェコなどの東欧諸国を転々とした後、現在はハンガリーに在住している。〈ヤルタ・ブールヴァード〉シリーズの開幕編でもあるデビュー作『嘆きの橋』は、作曲家の変死に端を発した連続殺人を追う刑事が――政府高官の圧力を受けながらも――人命を救うために西ベルリンへ潜入するというストーリー。本作はMWA(アメリカ探偵作家クラブ賞)の最優秀新人賞候補に選ばれたが、この時点でシリーズの狙いは確立されていたと言えるだろう。
その狙いが(いきなり)高いレベルで結実したのが、シリーズ第2作『極限捜査』である。民間警察殺人課の捜査官フェレンク・コリエザールは、ガス自殺を遂げたとされる元美術館長ヨゼフ・マネックの身辺を調べることになった。やがて党職員の妻スヴェルタ・ウォズニカが失踪し、広場では男の焼死体が発見される。離婚の危機に頭を悩ませつつ、並行して捜査を進めていくフェレンクが直面した国家の秘密とは……? 本作でも重層的なドラマが展開されており、その背後には1956年のハンガリー動乱が波打っている。国家と闘う"極限捜査"の経緯にして、これは――架空の国ではあるけれど――歴史のうねりに翻弄された人々の悲劇にほかならない。多彩なスケールの視点を備えた重厚な傑作なのである。
【関連サイト】
・Olen Steinhauer…オレン・スタインハウアーの公式サイトです(全文英語)。