ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

正義を貫く刑事たち

"国家に逆らって正義を貫く刑事"の物語が相次いで刊行されました。そんな傑作群――『チャイルド44』と『極限捜査』をまとめて御紹介しましょう。

執筆者:福井 健太

恐怖政治下のソ連を描く
スリリングな警察小説

『チャイルド44』
連続殺人の存在を察した人民警察の捜査官レオは、自分と身内を危険に晒しながらも真犯人を追い続ける。旧ソ連を舞台にしたサスペンスフルな物語だ。
トム・ロブ・スミスは1979年にロンドンで――スウェーデン人の母とイギリス人の父の間に――生まれ、2001年にケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業した。在学中から映画やテレビドラマの脚本を手掛け、小説家としてのデビュー作『チャイルド44』はCWA(英国推理作家協会賞)のイアン・フレミング・スティール・ダガー(最も優れたスパイ・冒険・スリラー小説に与えられる賞)に選ばれたほか、日本のミステリーマニアからも絶賛を浴びている。まさに"超大型新人"と呼ぶに相応しい新鋭なのだ。『チャイルド44』ではスターリン体制下のソ連で児童連続殺人が発生し、国家の名目のために無実の人々が処刑されていく。国家保安省から地方の人民警察に飛ばされたレオ・ステパノヴィッチ・デミドフは、強大な権力に翻弄されながらも、己の信じた正義のために真相を究明するのである。

本作は実在の殺人鬼――1978年から1990年にかけて52人の子供を殺害したチカチーロから着想を得て書かれている。"理想の国であるソ連に犯罪は存在しない"という建前がチカチーロの逮捕を遅らせた事実(に対する憤り)こそが、著者にこの野心的な警察小説を執筆させたのである。ちなみに本作はロシアでは発禁処分にされているが、アメリカではリドリー・スコット監督による映画化が進行中。今年度の翻訳ミステリーを代表しうる傑作として、映画化を待たずに読むことを強くお勧めしておこう。

次のページでは『極限捜査』を御紹介します。
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