期待の新鋭・深水黎一郎
殺人犯はこの本を読んでいる"あなた"――そんな大胆な趣向を凝らしたトリッキーなデビュー作。鏡を使った装丁もユニークだ。 |
記念すべきデビュー作『ウルチモ・トルッコ! 犯人はあなただ!』は、古典的な仕掛けの1つである"読者が犯人"に挑戦した異色作。奇妙なタイトルは"究極のトリック"を指すイタリア語("ULTIMO TRUCCO")で、これは"ULTIMATE TRICK"と読み替えると解りやすいだろう。小説家の「私」のもとに、読者を犯人にするトリックを1億円で買わないかという謎の手紙が届く――という冒頭から、その奇抜なアイデアが明かされるクライマックスまで、本作は"一発ネタへの興味"によって支えられている。そのぶん評価の分かれる内容ではあるものの、安定した文章力と構成力に注目した読者は多かったはずだ。そして彼らの期待に応えるように、著者は第2作『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ』において大化けを果たすのである。
次のページでは第2長編と第3長編を御紹介します。