2人の少女と異形の怪物を描く
青春ミステリーの快作
児童文学のテイストと"異世界の謎解き"は松尾由美の持ち味だが、最新作『人くい鬼モーリス』にもその両者が盛り込まれている。家庭教師のアルバイトのために避暑地を訪れた高校生・村尾信乃は、教え子の小学生・阿久根芽理沙に"人くい鬼"モーリスを見せられる。芽理沙はモーリスを「大人には見えない」「生きている人間は絶対に食べない」存在だと説明するが、その直後、阿久根家を取材中のライターが転落死を遂げた。モーリスが死体を食べたことで捜査が混乱し、さらに新たな殺人事件が発生してしまう。モーリス・センダックの名作絵本"Where The Wild Things Are"へのオマージュとして書かれた本作は、殺人犯の正体を暴くミステリーである以上に、化け物の住む"異世界"に触れた少女たちの夏休みを描く青春小説でもある。ミステリーのマニアだけではなく、ジュヴナイルの愛好家にも強くお勧めしたい野心的な物語なのだ。【関連サイト】
・理論社ミステリーYA!…『人くい鬼モーリス』を含む〈MYSTERY YA!〉叢書の公式サイトです。