文章:福井 健太(All About「ミステリー小説」旧ガイド)
マイケル・イネスの邦訳史
マイケル・イネス(「マイクル・イネス」と表記されることも多い)は1906年にイギリスのエディンバラで生まれた。オックスフォード大学オリエル・カレッジを卒業後、1935年に英文学教授としてオーストラリアのアデレード大学に招聘され、現地へ向かう(約6週間に及ぶ)船旅の間に『学長の死』を執筆。この作品でミステリー作家としてのデビューを遂げたイネスは、1945年にオーストラリアを離れるまでに10作の〈ジョン・アプルビイ警部〉シリーズを発表し、帰国後もコンスタントに新作を生み続けた。1994年に亡くなるまでに約50冊のミステリーを発表した"英国ミステリー界の名匠"なのである。1947年に江戸川乱歩がイネスの『ある詩人への挽歌』(当時は未訳)を「初め三分の一ほどが古いスコットランド方言丸出しの記録で、普通の字引に無い言葉が多く、殆ど理解し得なかった」と評し、1957年に邦訳された『ハムレット復讐せよ』(ハヤカワ・ミステリ版)が悪文だったせいもあり、日本では長らく"イネス=難解な作家"というイメージが流布していた。その作風がウィットに富むものだと(ようやく)周知されたのは、多くの作品が邦訳されるようになった近年のことだ。
アカデミックな本格ミステリー
貴族の邸宅で催された『ハムレット』の上演中に参加者の一人が射殺された。アプルビイ警部は真犯人を突き止めることができるのか? |
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