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北森鴻のミステリー・シリーズ(2ページ目)

骨董品、民俗学、歴史などを題材にしたミステリーに定評のある北森鴻。そのシリーズ作品をまとめて御紹介します。

執筆者:福井 健太

バーのマスターは名探偵

『花の下にて春死なむ』
身元不明の老俳人・片岡草魚がその寿命を終えた。季節外れの桜が伝える意外な真相とは? 日本推理作家協会賞を受賞した傑作短編集。
三軒茶屋の裏通りにあるビアバー"香菜里屋"のマスター・工藤哲也は、来客の持ち寄った謎を解明する名探偵でもあった。『花の下にて春死なむ』『桜宵』『蛍坂』『香菜里屋を知っていますか』(いずれも短編集)から成る〈香菜里屋〉シリーズでは、謎解きの意外性やギミックよりも、秘められた過去や真意に秘められたドラマ性のほうが重視されている。オーソドックスな安楽椅子探偵モノとして続いてきた本シリーズが、最終巻において――常連客たちの視点を交えながら――工藤自身の謎と"香菜里屋"の最後を扱ったのも、喪失感を介してクライマックスを盛り上げるための趣向に違いない。そしてその試みは鮮やかに成功したと言えるだろう。

民俗学者探偵・蓮丈那智

『凶笑面』
奇妙な面を調べるために長野県を訪れた蓮丈那智は、密室で殺された骨董商の謎に遭遇する。〈蓮丈那智フィールドファイル〉シリーズ第1作品集。
"異端の民俗学者"と称される東敬大学助教授・蓮杖那智は、特異な学説をフィールドワークによって実証するという信念の持ち主。蓮杖(と助手の内藤三國)は調査に向かった土地で難事件に遭遇し、民俗学的な謎と犯罪の謎をまとめて解き明かしていく。本シリーズは『凶笑面』『触身仏』『写楽・考』の3冊(いずれも短編集)が刊行されており、北森作品の中でも特に本格ミステリ色の強い仕上がりになっている。

北森には〈裏京都ミステリー〉というシリーズもあるが、これは"大悲閣千光寺"の寺男となった元怪盗・有馬次郎を主役にしたユーモアミステリー。現在までに『支那そば館の謎』『ぶぶ漬け伝説の謎』(いずれも短編集)の2冊が上梓されている。ちなみに〈冬狐堂〉シリーズの『狐闇』には蓮丈那智がゲスト出演し、同様に〈香菜里屋〉シリーズの『香菜里屋を知っていますか』には宇佐見陶子や蓮丈那智が登場している。キャラクター同士の繋がりもまた北森作品の魅力の1つなのだ。

【関連サイト】
酔鴻思考…北森鴻公式サイト。掲示板、人気作品ランキング、全著作紹介などが設置されています。
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