名脚本家にして推理作家
辻真先のプロフィール

『仮題・中学殺人事件』
漫画原作者・石黒竜樹が殺害され、少女漫画家の山添みはるが逮捕された。さらに中学校で密室殺人が発生し、迷コンビが探偵役を買って出るのだが……。
辻真先は1932年名古屋市生まれ。名古屋大学文学部卒。NHKでドラマのプロデューサーを務めた後、1962年に脚本家として独立し――手塚治虫のプロダクション"虫プロ"で『鉄腕アトム』を担当したほか――多くのヒット作(『デビルマン』『巨人の星』『サザエさん』『ドラえもん』『巨神ゴーグ』など)を手掛け、黎明期のテレビアニメを支えた脚本界の重鎮である。『どろろ』『ルパン三世』『Dr.スランプ』などの小説版も執筆しており、その点からもアニメファンにはよく知られた人物と言えるだろう。

そんな彼は1963年に「生意気な鏡の物語」(名義は桂真佐喜)でデビューし、1972年の初長編『仮題・中学殺人事件』でミステリーマニアの度肝を抜いた推理作家でもある。ちなみに本書と続編『盗作・高校殺人事件』『改訂・受験殺人事件』および短編「一件落着!」は、1990年に『合本・青春殺人事件』として1冊にまとめられた。1981年には『アリスの国の殺人』で第35回日本推理作家協会賞を受賞。雑種犬が探偵役を務める〈迷犬ルパン〉シリーズ、瓜生慎と三ツ江真由子が活躍するトラベルミステリーなど、100冊以上のミステリーを発表している精力的な書き手なのだ。

辻ミステリーの実験性

『アリスの国の殺人』
漫画雑誌の編集長が殺された。しかしストレスが溜まった部下の脳内では"不思議の国"の物語が展開され、チェシャ猫が密室で殺されていた。異色の構成が光る日本推理作家協会賞受賞作。
辻真先のミステリーは極めて多岐に渡っているが、とりわけ特徴的なのは"実験的ミステリー"の数々だろう。メタフィクションの手法を駆使した『仮題・中学殺人事件』以来、辻はミステリーの常識を覆すような傑作をいくつも生み出している。そこでは読者も犯人に成り得るし、ファンタジー世界と現実が交錯するし、小説と漫画が混在したりもする。まさに"何でもあり"の世界なのだ。

たとえば『アリスの国の殺人』では『不思議の国のアリス』の世界で起きた"チェシャ猫殺し"と現実の殺人事件が並行して描かれ、稀代の怪作『天使の殺人』では「このミステリの犯人は天使です。しかし探偵役もまた天使が務めます。一方、このミステリは「犯人捜し」の物語であると同時に、死者と探偵が誰なのか判らず、しかも「天使の殺人」の作者さえ判らない、という作品なのです」という大技が炸裂している。破天荒なアイデアと技巧を併せ持つ異才――それが辻真先なのだ。

次のページでは『完全恋愛』を御紹介します。