ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

貴志祐介、3年半ぶりの最新刊(2ページ目)

『黒い家』『硝子のハンマー』などを生んだベストセラー作家・貴志祐介。待望の最新刊は1000年後の日本を舞台にした冒険SFです。

執筆者:福井 健太

密室の謎に挑む本格ミステリー

『硝子のハンマー』
介護会社のビルで密室殺人が発生。弁護士に依頼された"防犯コンサルタント"榎本径が密室の謎に挑む。多くのトリックを楽しめる野心的な本格ミステリーだ。
第58回日本推理作家協会賞に選ばれた『硝子のハンマー』は、密室殺人を題材にしたスタンダードな本格ミステリーである。役員たちが本社に集められた日曜日の午後――暗証番号付きのエレベーター、監視カメラ、警備員などの存在にも関わらず、社長・頴原昭造の撲殺死体が自室で発見された。隣室で仮眠を取っていた専務・久永篤二が逮捕され、弁護士の青砥純子は"防犯コンサルタント"榎本径に協力を仰ぐのだが……。

本作には多くの魅力が詰まっているが、とりわけ注目すべき点は――本格ミステリーのお約束を高密度にしたような――次々に密室トリックが案出されては否定されるという"繰り返し"にある。最終的な真相は1つだとしても、読者はここで多くの密室トリック(および偽の解決編)を楽しめるわけだ。ユニークな探偵役を導入し、様々な仮説を提示させることで、本作はウィットとスピード感を備えた"娯楽小説"に成り得ている。

構想25年の超大作

『新世界より』
""呪力"の支配する管理社会には血腥い過去があった。伝説が実体化して子供たちを襲い、少女は決死の旅に出る。奇想に満ちた冒険SFの傑作だ。
著者の最新作『新世界より』は、1000年後の日本を舞台にしたファンタジックな冒険SFである。人々は科学の代わりに"呪力"が支配する管理社会に生き、学校教育に適さない子供は社会から抹消されていた。世界には"異形の者"が跋扈しており、人間に忠誠を誓ってはいるものの、時には人間を襲うこともある。真実を知らずに育った子供たちは、人類が築いた文明の正体を知らされるが……。醸造期間の長い物語だけに、世界が詳細に作り込まれているのは興味深いが、これは単なるユートピア小説ではない。グロテスクな社会の構築だけではなく、少女の冒険にも力を注いでいるのは"娯楽作家"の面目躍如。以前からのファンはもちろん、SFをあまり読まない人にもお勧めしたい一流のエンタテインメントである。

【関連サイト】
貴志祐介(Wikipedia)…ウィキペディアの「貴志祐介」の項目です。
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