Reader's Selectionの傾向
まずは『Reader's Selection』から見ていこう。「数字錠」「糸ノコとジグザグ」「疾走する死者」「ある騎士の物語」「最後のディナー」という並びは、御手洗シリーズの高い人気を反映したものと言えそうだ。DJが謎のメッセージを解読して自殺を阻止する「糸ノコとジグザグ」以外の4編は――語り手は異なるけれど――いずれも御手洗潔が活躍する物語。大胆な物理トリックを軸にした「疾走する死者」を例外として、人情話が揃っているのは興味深いが、これは(アンケートに回答した)読者の最大公約数なのだろう。1980年代の作品が多いのも特徴的だが、これは読者が島田作品に出逢った時期と関係があるのかもしれない。Author's Selectionの傾向
いっぽう著者のセレクションは「大根奇聞」「暗闇団子」「耳の光る児」「傘を折る女」「山手の幽霊」の5編。花魁と侍の悲恋を描く時代小説「暗闇団子」はミステリーではないけれど、物語作家としての力量を感じさせる傑作なのは間違いない。こちらでも御手洗シリーズが4編を占めているが、2000年代の作品が多いのは『Reader's Selection』との最大の違いだろう(『Author's Selection』のほうが5割ほど厚いのは、近年の作品のほうが概して長いから)。「次に書く作品が最高傑作」という信条を持つ島田にとって、新しい作品の評価が高くなるのは当然のこと。かくして『Shimada Soji very BEST 10』は新旧の御手洗シリーズ8編+2編を楽しめる豪華な1冊(2冊)になったわけだ。もっとも『展望塔の殺人』『毒を売る女』『踊る手なが猿』などのノンシリーズ短編集にも傑作は多いので――あえて率直に言えば――御手洗シリーズに偏りすぎている感がなくもない。著者の作風を愛する読者であれば、これらの単行本にも手を出して欲しいところである。島田荘司が選ぶミステリー新人賞
島田は新人のデビューに好意的な作家だが、出身地の福山市で2007年に設立された「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」にも選者として全面的に協力している。もちろん実作者としての活動も精力的に続けており、2008年には講談社BOX〈大河ノベル〉の12か月連続刊行が予定されている。この超人的なバイタリティがある限り、島田は本格ミステリー界のトップに君臨し続けるに違いない。【関連サイト】
・島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞…ミステリー文学賞の公式サイト。応募要項と選者のコメントが置かれています。
・講談社BOX…〈講談社BOX〉レーベルの公式サイトです。