ある世代の人々――それも子供の頃からの本好きであれば、ナンシー・ドルーの名前を覚えているに違いない。1930年に始まった〈少女探偵ナンシー・ドルー〉シリーズは、現在もなお新作が書かれている超ロングセラー。日本の子供が〈少年探偵団〉で推理モノに目覚めるように、アメリカの子供はこのシリーズで謎解きモノを発見するのだ。同シリーズは約200作(!)が発表されており、その約1割が日本にも紹介されている。
〈ナンシー・ドルー〉シリーズとは
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強欲な一家が独占した遺産を分配させるため、ナンシーは隠された遺言状を探し始める。歴史的シリーズの記念すべき第1作。 |
このシリーズの存在を初めて知った方は、上の説明に「?」と思われたかもしれない。1930年に開幕したシリーズが現役なのは何故か――その答はいたって単純。著者名として記されている「キャロリン・キーン」は、児童文学者エドワード・ストラテマイヤーの工房で〈ナンシー・ドルー〉シリーズが書かれる際の共用ペンネームなのだ。1979年までに書かれた56冊は「オリジナル・クラシック」と呼ばれるが、その後も100冊以上のペーパーバック版が刊行されており、2004年には新シリーズもスタートした。幼い頃に母親を亡くし、弁護士の父親と家政婦に育てられた18歳の少女ナンシー・ドルーが、友人と協力して多彩な謎を解決する――というのがシリーズの王道パターン。ストラテマイヤーの児童文学者としての配慮により、殺人などの残酷シーンは登場しないようになっている。
シリーズの初期作品は何度も邦訳されているが、創元推理文庫版
『古時計の秘密』は初めての完訳にあたる。ドライブ中に少女を事故から救ったナンシーは、貧しい暮らしをしている老姉妹に出逢い、彼女たちを援助していた資産家が亡くなったという話を聞く。資産家を最後に引き取った一家が遺産を独占したために――老姉妹だけではなく――多くの人々が困っていると知ったナンシーは、遺産が配分されるように遺言状を探すことにした。派手な事件やトリックはないものの、正義感の強いヒロインの冒険譚としては存分に楽しめる。ちなみに第2作『幽霊屋敷の謎』は12月に刊行予定。ナンシーが友人に頼まれて「幽霊屋敷」を調査するという物語だ。
次のページでは新シリーズを御紹介します。