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逆玉探偵が遭遇するこの世の毒

宮部みゆき3年ぶりの現代ミステリー『名もなき毒』の主人公は『誰か』で初登場した杉村三郎。話題作の内容とシリーズの魅力にせまります!

執筆者:石井 千湖


宮部みゆき3年ぶりの現代ミステリー『名もなき毒』の主人公は、『誰か』で初登場した杉村三郎。彼は社内報を編集する“普通”の会社員。ただし、妻の父は日本有数の財閥企業の会長だったのです。

いわゆる“逆玉”に乗ったものの、お人好しで野心はゼロ。そんな杉村が今回遭遇する事件とは?

この世に存在する見えない“毒”とは?

名もなき毒
『誰か』につづく、シリーズ第2弾。
物語の冒頭、ある老人がコンビニで買ったウーロン茶を飲んで亡くなってしまいます。老人は首都圏で相次いで起こった無差別毒殺事件の4人目の被害者。その孫娘・美知香と杉村は知り合います。一介の会社員と殺人事件の被害者の家族をつなぐきっかけになるのは、原田いずみ。彼女は杉村のアシスタントとして働いていた女性でした。かつていずみの身辺調査をした私立探偵・北見の事務所が接点になったのです。

とにかく本書を読むと、この原田いずみというキャラクターが強烈に印象に残ります。子どもの頃、クラスにひとりはいた嘘つきの女の子。もしそういう子が、より酷い嘘をつきづづけて大人になったら? 小説も嘘の一種だし、他人を傷つけないための優しい嘘もありますが、いずみの嘘は周囲に災厄をもたらす“毒”。たまたま彼女をアルバイトとして雇ったがために、杉村も同僚たちも酷い目に遭ってしまいます。姿を消し、会社に嫌がらせをするいずみ。彼女のことを調べつつ、祖父の死の真相を知ろうとする美知香の相談に乗った杉村は、毒殺事件の謎にも首を突っ込んでしまうのですが……。

無差別連続毒殺事件と会社の人事トラブル、そして社内報の取材で知った宅地土壌汚染問題。さまざまなピースを“毒”でリンクさせていく構成がお見事! 終盤のいずみとある人物の対決シーンまで、ページをめくる指がとまりません。

シリーズの今後はどうなる? 続きは次ページへ>>

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