最高傑作の呼び声も高い
シリーズ第3長編
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麻里亜を追って四国に向かったEMCの面々は、分断された村で起こった2つの殺人事件に遭遇する。巧緻なプロットが光る著者の代表作。 |
1992年に発表された
『双頭の悪魔』には、長編2本分のボリュームとストーリーが詰め込まれている。前作の事件でショックを受けた麻里亜は、仲間や家族との連絡を絶ち、芸術家たちが創作に専念する木更村の共同体に籠もっていた。EMCの面々は麻里亜を奪還するために――大雨の中――外部との接触を拒絶する木更村への潜入を試みるが、江神以外の3人(望月、織田、有栖川)は川の対岸にある夏森村に取り残され、唯一の橋も濁流に流されてしまう。江神は麻里亜と逢うことに成功するが、互いに連絡の取れない状況下、木更村の洞窟で画家が殺され、夏森村の廃校ではカメラマンが殺害された。分断された村で同じ日に事件が起きた理由は? そして麻里亜を連れ戻すことは出来るのか? 有栖川と麻里亜の「すれ違い」のドラマを背景に、奇抜なトリックとプロットを描ききった渾身の力作。本格ミステリーとしての完成度だけではなく、青春小説としての側面にも注目したい物語だ。
15年ぶりのシリーズ最新作
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江神を追って新興宗教の総本山に向かった有栖川たちは、教団内の連続殺人に巻き込まれて施設に軟禁されることに。彼らは無事に真相を究明できるのか? |
そして2007年――多くのファンが待ち望んだ第4長編
『女王国の城』がついに登場した。姿を見せない江神を案じた有栖川は、江神が宗教団体「人類協会」の総本山・神倉に居ることを突き止める。神倉を訪れたEMCの会員たちは江神の無事を確認するが、殺人事件が起きたために身柄を拘束されてしまう。彼らは「城」と呼ばれる総本部からの脱出を計りつつ、真相解明のために奮闘するのだが……。閉鎖環境下の殺人、消去法による推理などの基本形を生かしつつ、脱出劇のサスペンスを盛り込んだ著者の力量は高く評価すべきだろう。凶器の入手法にまつわる意外性、宗教団体ならではの動機など、随所に埋め込まれたアイデアの数々も秀逸である。
著者のあとがきには(本シリーズは)「長編五作で完結し、短編を一冊ないし二冊にまとめるつもり」だが「未来は常に不確定」と記されている。EMCメンバーの学生時代は残り少ないが、次の長編で完結するのか、さらに楽しませてもらえるのか――今後の展開は大いに気になるところだ。
【関連サイト】
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ようこそ神倉へ…東京創元社公式サイトの『女王国の城』紹介ページです。