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女王国の城、落成!

有栖川有栖の〈江神シリーズ〉最新作が15年ぶりに登場。この機会にシリーズ4作を振り返ってみましょう。

執筆者:福井 健太

有栖川有栖の基礎知識

『月光ゲーム』
火山の噴火に閉ざされたキャンプ場で殺人事件が起こった。推理小説研究会の会長・江神二郎は鮮やかな推理で容疑者を絞り込んでいく。著者の記念すべきデビュー作。
本格ミステリーを愛好する読者であれば、有栖川有栖の名前は(当然)よく御存知のはずだ。有栖川は1959年大阪市生まれ。同志社大学在学中には推理小説研究会のメンバーとして活動し、書店員時代の1989年に『月光ゲーム』で小説家デビュー。臨床犯罪学者・火村英生のシリーズを中心に多くの作品を発表し、2000年に「本格ミステリ作家クラブ」の初代会長に就任。2003年には『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞を受賞した――という押しも押されもせぬ大御所である。

有栖川の著書は30冊を超えるが、本格ミステリー作家としての軸が〈江神シリーズ〉にあることは間違いない。『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』と刊行された後、このシリーズ(長編)は長きにわたって停止していた。そして前作から15年目にあたる今年――ついに最新刊『女王国の城』が刊行されたのである。

デビュー作と第2作

『孤島パズル』
秘宝の隠された孤島で惨劇が発生。江神たちは真犯人と秘宝の在処を突き止められるのか? 新ヒロインの麻里亜も加わったシリーズ第2弾。
著者のデビュー作『月光ゲーム』は、東都大学推理小説研究会(EMC)――江神二郎、望月周平、織田光次郎、有栖川有栖(著者と同名の語り手)の初登場作でもある。矢吹山で合宿をしていた彼らは、噴火によって他大学のグループとともにキャンプ場に閉じ込められる。やがて学生が死体となって発見され、その現場には「Y」という文字が残されていた。ダイイングメッセージ、容疑者を絞り込むロジック、終盤に「読者への挑戦状」を挿入する趣向などは、いずれもエラリイ・クイーンを強く意識したものだった。クイズ性を前面に押し出した作風は、多くの本格ミステリーマニアに好意的に迎えられたのである。

同年に刊行された続編『孤島パズル』は、EMCに女性会員・有馬麻里亜が入会したところで幕を開ける。孤島に伯父の別荘があるという麻里亜の誘いを受け、江神と有栖川は夏休みを利用して嘉敷島を訪れた。2人は麻里亜の祖父が残した「秘宝の在処を示すパズル」に挑むものの、その矢先に大事件が発生する。台風に閉ざされた小屋で2人の滞在客が射殺されたのだ。ヒロインの投入によって物語の幅を広げつつ、犯人当てと宝探しの興味を盛り込んだ野心作といえるだろう。

次のページでは『双頭の悪魔』『女王国の城』を御紹介します。
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