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西村京太郎のミステリー世界

日本で最も有名なトラベルミステリ作家・西村京太郎。意外と知られていないその素顔に迫ります。

執筆者:福井 健太

西村京太郎(本名・矢島喜八郎)は1930年9月6日に東京都で生まれた。少年時代から江戸川乱歩や甲賀三郎を愛読し、東京府立電機工業学校(現・東京都立工業高等専門学校)を卒業後、臨時人事委員会(現在の人事院)に11年間勤務。退職後にはパン屋の運転手、私立探偵、中央競馬会の警備員、生命保険のセールスマンなどの職業を転々としながら懸賞小説を書き続け、1961年に「黒の記憶」が『宝石』誌に掲載される。1962年に「病める心」が双葉新人賞の2席に選ばれ、1963年には「歪んだ朝」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。翌年に初長編『四つの終止符』を上梓し、1965年には『天使の傷痕』で江戸川乱歩賞を獲得した――というプロフィールからも解るように、西村は人生経験の豊富な小説家である。その多彩な作風を御紹介しよう。

多芸家としての西村京太郎

『天使の傷痕』
デート中に殺人現場に遭遇した新聞記者・田島は、事件の原因となった社会的悲劇に肉薄していく。第11回江戸川乱歩賞受賞作
被差別者の悲劇を描く『天使の傷痕』、スパイ小説『D機関情報』、近未来小説『太陽と砂』『21世紀のブルース』など、1960年代の西村は多彩なジャンルの作品を発表している。部数的には必ずしも好調ではなかったが、この時期の修行が彼の力量を増したことは間違いない。

そんな彼の最初のヒット作が『名探偵なんか怖くない』『名探偵が多すぎる』『名探偵も楽じゃない』『名探偵に乾杯』の4作からなる〈名探偵シリーズ〉だ。世界のミステリーに登場する名探偵――メグレ警視、エラリー・クイーン、エルキュール・ポワロ、明智小五郎などが一堂に会するパロディにして、洒脱なユーモアと本格的な謎解きが楽しめる好シリーズ。今もなお「著者の最高傑作」と評する人が少なくない名作である。

海洋ミステリーと左文字進

『殺しの双曲線』
雪に閉ざされた山荘で連続殺人が発生した。犯人はこの中にいる! 読者を欺く巧緻なトリックが施された本格ミステリーの傑作
1960年代が模索の時代だったとすれば、1970年代は海洋ミステリーの時代だった。『ある朝 海に』『脱出』『汚染海域』『ハイビスカス殺人事件』『伊豆七島殺人事件』など、この時期の西村は海を舞台にした作品を数多く発表している。あの十津川警部も(鉄道モノではなく)海事専門の刑事として『赤い帆船』『消えたタンカー』『消えた乗組員』などで活躍していた。

ちなみに――海洋モノではないけれど――閉鎖空間モノの本格ミステリー『殺しの双曲線』、青春ミステリー『おれたちはブルースしか歌わない』などの秀作が書かれたのもこの頃である。

西村作品のシリーズキャラクターとしては、1976年に『消えた巨人軍』で初登場した私立探偵・左文字進も忘れることはできない。左文字はサンフランシスコで私立探偵を開業したアメリカ生まれのハーフだが、現在は新宿に事務所を構えている。『華麗なる誘拐』『ゼロ計画を阻止せよ』『盗まれた都市』『黄金番組殺人事件』などで活躍するハードボイルド型の名探偵だ。


次のページでは西村京太郎のトラベルミステリーを御紹介します。
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