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鉄道ミステリーの優雅な旅(2ページ目)

ミステリーで愛用されるテーマの1つに「鉄道」があります。今回は列車を舞台にした翻訳ミステリーを御案内しましょう。

執筆者:福井 健太

鉄道ミステリーの古典たち

『オリエント急行の殺人』
停車中のオリエント急行で乗客の死体が発見された。名探偵エルキュール・ポワロが突き止めた意外な犯人の正体とは?
日本の読者に「好きな海外の鉄道ミステリー」のアンケートを取れば、アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』が1位になることは確実だろう。ロンドンへ向かうオリエント急行が(大雪のために)ユーゴスラビアの山中で停車した翌朝、密室状態の客室で刺殺体が発見された。同乗していた知人の依頼を受け、名探偵エルキュール・ポワロが捜査に乗り出すものの、乗客全員にアリバイが成立してしまう。アルバート・フィニー主演の映画でも知られる本作は、魅惑的な状況設定、入り組んだ謎、意外な犯人などが融合した名作中の名作。事件の真相だけではなく、結末におけるポワロの選択に感銘を受けた人も多いはずだ。

クリスティーの列車ミステリーとしては、他に『青列車の秘密』『パディントン発4時50分』なども挙げられる。前者はブルートレインで富豪の娘が殺され、乗り合わせたポワロが謎を解くという物語。後者は「併走する列車の殺人事件を目撃した」という友人の主張を受け、死体が捨てられたと思しき屋敷にミス・マープルが(スパイとして)家政婦を送り込む話。後者では列車は前半にしか登場しないが、列車によって特異なシチュエーションを生んだ野心作であることは間違いない。

アルフレッド・ヒッチコック監督
『バルカン超特急』の原作

『バルカン超特急』
特急列車で知り合った女性が消失した。周囲の人々は誰も彼女を見ていないという。不気味な境遇に置かれたヒロインの苦闘を描くサスペンスの古典。
映画化された鉄道ミステリーといえば、エセル・リナ・ホワイト『バルカン超特急』も忘れることはできない。リゾート地から帰る途中、アイリスは特急列車でミス・フロイと名乗る女性に出逢うが、彼女は突然消えてしまった。アイリスは彼女を探すものの、他の乗客たちは「そんな女は居なかった」と口を揃えるばかり。ヒッチコック映画の原作として知られる本作は――劇場公開から65年を経て――2003年にようやく邦訳された。映画マニアには見逃せない1冊といえるだろう。

鉄道ミステリーは無数に書かれており、セバスチャン・ジャプリゾのデビュー作『寝台車の殺人者』のような好著もあれば――日本では単行本化されていないが――ヴィクター・L・ホワイトチャーチのような鉄道ミステリーの名手も存在する。日本への紹介は充分ではないけれど、欧米の鉄道ミステリーは1つの豊かな鉱脈なのである。

【関連サイト】
東京創元社公式サイト…版元による『記憶をなくして汽車の旅』紹介ページ。著者と作品に関する記事が読めます。
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