奇抜な犯罪計画とその結末
|
クリフが入手した稀覯本は盗品だった? 老婦人の蔵書探索と強盗殺人に関係はあるのか? 凝ったプロットが印象的なシリーズ第3作。 |
第3作
『失われし書庫』でもクリフが古書絡みの犯罪に巻き込まれる。リチャード・バートン(19世紀イギリスの探検家。民族と風習にまつわる多くの著作を残した。『千夜一夜物語』『カーマ・スートラ』の翻訳者としても知られる)の稀覯本を3万ドルで入手したクリフを訪れたのは、一人のいわくありげな老婦人だった。バートンと親交のあった祖父の書庫を騙し取られた、クリフが入手したのはその1冊である――と主張する老婦人のため、クリフは
失われし書庫の探索を始めるが、その矢先に強盗殺人が発生。元刑事の勘で「これは計画犯罪だ」と確信したクリフは、周到に仕組まれた陰謀の核心に迫っていく。本書にはバートンの架空の旅行記が挟まれているが、これは南北戦争前の南米を舞台にしたストーリー。語弊を恐れずに言ってしまえば、この部分――バートンとリチャード(老婦人の祖父)の冒険行を本編よりも楽しく感じる読者も多いはずだ。
2年半ぶりの最新刊がついに登場
|
サイン本の収集家が射殺された。クリフと恋人のエリンは容疑者を救うために奮闘するが、二人は予想外の危機に陥ってしまう。 |
最新刊
『災いの古書』でもシリーズの持ち味は変わっていない。恋人である弁護士エリンの頼みを受け、クリフは蔵書家の射殺事件を調べることにした。被害者はエリンの昔の恋人で、容疑者はエリンの元親友。被害者はサイン本の収集家でもあり、怪しげな三人組がその蔵書をめぐって暗躍していた。クリフたちを襲う危機、悪党の造型などに重点が置かれた、シリーズ屈指のオーソドックスなサスペンスに仕上がっている。
キャラクターとプロットだけではなく、古書にまつわる蘊蓄も〈クリフ〉シリーズの大きな魅力に違いない。古書の転売屋、特装本、書庫の盗難、サイン本などの蘊蓄が綴られており、読者はそのトリビアを楽しむことができる。本好きが国籍を問わない以上、古書の専門家が本好きを喜ばせる趣向を詰め込んだ〈クリフ〉シリーズが――洋の東西を問わず――多くのファンを獲得したのは当然のことなのだ。
【関連サイト】
・
Old Algonquin Books…ジョン・ダニングの経営する古書稀覯本専門店。もちろん表記は英語です。