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東野圭吾が描く家族の闇(2ページ目)

お年寄りをめぐる痛ましいニュースが絶えない昨今。高齢化社会と家族の関係に切り込んだ東野圭吾の最新作、『赤い指』を紹介します。

執筆者:石井 千湖

誰にとっても他人事じゃない

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妻に文句を言われるのがイヤで目の前の問題を先送りしてきた昭夫。義母を疎む一方で息子を甘やかしてきた八重子。ふたりは加賀に疑いをかけられていることがわかると、最悪の決断を下します。その決断はほんとうに酷い。読みながら昭夫と八重子に腹が立ったら、すっかり著者のペースに乗せられています。腹が立てば立つほど、クライマックスの感動は大きくなりますから。

ただひとつ気になるのが、八重子の描き方。昭夫が家族に無関心だからかもしれないし、亡くなっている可能性もありますが、八重子の親の話がまったく出てこないんですね。昭夫が政恵の息子であるように、八重子も誰かの娘のはずなんですが。彼女の育ってきた環境や内面がほとんどわからないので、単なる鬼嫁、かつ子どもを溺愛する愚かな母親にしか見えません。自分が女性だからかもしれませんが、もう少し八重子のことが知りたかった。

もし自分が八重子の立場だったら、同居してきちんと認知症の老人の世話をできるだろうか? それ以外の選択肢はないのか? 昭夫だったら八重子とちゃんと話し合えるだろうか? そんなことを考えると重い気持ちになります。

とはいえ、こういう重い問題をエンターテインメントとして読ませる筆力はさすが。タイトルにつながる“赤い指”の謎やちょっとした小道具の使い方が巧いんですよね。悲惨な話ですが、最後の最後に明らかになるある謎の真相が読後感を良くしている。著者の作品のアベレージの高さを再認識する一冊です。

次ページでは加賀恭一郎シリーズのほかの作品について紹介します。>>

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