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推協長編賞は恩田陸『ユージニア』

第59回日本推理作家協会賞長編部門を見事受賞したのは恩田陸『ユージニア』! 恩田さんおめでとうございます。というわけで、詳しく紹介させていただきます。

執筆者:石井 千湖


第59回日本推理作家協会賞長編部門を見事受賞したのは恩田陸『ユージニア』! 恩田さんおめでとうございます。というわけで、作品の魅力を詳しく紹介させていただきます。

大量毒殺事件と生き残りの美少女をめぐる物語

ユージニア
祖父江慎さんによる装幀も格好いい!
友禅の下絵は、白い絹に青い線で描かれます。ツユクサの花の汁を和紙に染みこませて乾燥した、青花と呼ばれる染料を水で溶いて使うのですが、青花で描かれた線は水で洗えば跡形もなく消えるのだそうです。恩田陸の『ユージニア』で、殺人事件の現場に謎めいた手紙とともにあったのは、そのツユクサが活けられたコップ。消された下絵を想像するように、いろんな深読みをしたくなる本です。

まず水の描写の繰り返しが気になります。海から降ってくる雨、街の中心部を守るように流れる男川と女川、潮騒。デザイン上の工夫でフォントが斜めに印字してあるため、角度が水平に近くなった読点も、水滴が流れているように見えなくもありません。水は不定形だから、読めば読むほどとらえどころがなくなる『ユージニア』のイメージにぴったり。

『ユージニア』舞台は北陸のK市。著者は実名を記していませんが、百万石と雪景色と友禅流しで有名な古都であることは、容易に推測できます。数十年前の夏、ある大雨の日に、土地の名家であり、代々医業をいとなむ青澤家で当主の還暦とその母の米寿を祝う会が催されていました。贈り物として運び込まれた酒とジュースを飲み、一家と近所の人などあわせて十七人が死亡。家族のうち生き残ったのは、盲目の美少女だけ。現場のテーブルには〈ユージニア、私のユージニア〉という呼びかけからはじまる詩のようなものが書かれた手紙が残されていたのです。

次ページではインスパイア元の作品と『ユージニア』を比較!
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