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旅に持って行きたい文庫ベスト5(5ページ目)

年末年始、旅の計画を立てている方も多いのでは? 2007年に発売された文庫の中から、旅のおともにしたい本を5冊セレクト。もちろん、家でゆっくり読むのもオススメ!

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

話題の本ガイド

ノスタルジックな世界を美しい文章で描いた短編集

画像(C)新潮社
川端康成文学賞受賞作「スタンス・ドット」ほか、架空の町・雪沼とその周辺を舞台にした連作7篇を収録。<DATA>タイトル:『雪沼とその周辺』出版社:新潮社著者:堀江敏幸価格:380円(税込)
 『雪沼とその周辺』は、山あいにある架空の小さな町とその周辺を舞台にした短編集だ。

主人公になっているのは、どこか時代の波に置き去りにされている人たち。友人が作ったこの世にひとつしかない機械、子供を亡くした母が集めているランプ、客の顔を見れば聞きたい曲がわかるレコード店員が大事にしている旧式のステレオ……彼らが愛着を持っている物の描写がいい。みんな古くて便利さとは対極にあるが、唯一無二の存在なのだ。

例えば冒頭に収められた「スタンス・ドット」のボウリング場は、ピンが倒れるときにこんな音がする。

音が均一にはじけ飛ぶのではなく、すべてのピンが倒れたあと、レーンの奥で一度、見えない大きな球になって、ゆっくり加速しながら、投げ手のほうに押し出されてくる。

この音が聞きたくて自分でボウリング場を開いた老人の半生と、廃業の日の出来事が静かに語られている。あらすじだけ説明すると地味な話なのに、文章が美しいので退屈しない。上等の日本酒のように、芳醇かつ後味がベタベタしないラスト一行も見事!

温泉など日常の喧騒を離れた空間で、少しずつ楽しみたい1冊だ。

<DATA>
タイトル:『雪沼とその周辺』
出版社:新潮社
著者:堀江敏幸
価格:380円(税込)

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