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映画で見る熟年恋愛、それぞれの事情(2ページ目)

昭和と平成の50代では考え方も健康面も変ってきていますし、アンチエイジングという考え方も一般化しています。今回は、熟年と言っても心も身体も若々しい今の熟年の方に、名作から「3つの恋愛事情」を……。

執筆者:中野 豊

『逢びき』に見る人妻ローラの恋愛

逢びき
1945年/イギリス映画/上映時間:86min/デヴィッド・リーン監督作品『逢びき』
裕福な人妻ローラ(シリア・ジョンスン)は毎週木曜日に、子供をお手伝いさんに預けて、列車で町に出て買い物やレストランでの食事、映画を一人で楽しむことを気晴らしにしています。そんなある木曜日、列車が来るまでの時間を潰す駅のカフェで目に入ったすすを、心優しい医者アレックス(トレバー・ハワード)に取ってもらい、それが縁で毎週木曜日に会うようになります。

いく度か会ううちに互いに惹かれあい、唇を交わすまでに……。しかし、ある出来事をきっかけに互いに自責の念が沸いて、アレックスは海外に赴任すると語ります。最後の木曜日、アレックスと別れたローラはひとりホームに立つうち列車に飛び込みたい衝動に駆られますが、思い止め帰宅します。そしてラストシーン。夫が妻(ローラ)にそっと、いたわるように「遠くへ行っていたんだね。帰ってきてくれて、ありがとう」と言います。

「恋はするものではなく堕ちるもの」と言われます。偶然の出会いから芽生えた「恋心」は膨らみ、ローラの心の中を支配してゆきました。恋すると人は美しくなるものでしょう。長年連れ添った夫は妻の変化を見逃してはいなかったのです。映画の後日談は語られませんが、以前より美しくなった妻を夫が惚れ直したのだと信じます。

『旅情』に見る働く独身女性ジェインの恋愛

旅情
1955年/イギリス映画/上映時間:100min/デヴィッド・リーン監督作品『旅情』
アメリカの地方都市で秘書をしているジェイン(キャサリン・ヘップバーン)は、やっとの思いで休暇をみつけ、憧れのヴェニスにやってきます。はじめは見るものすべてが珍しくはしゃぎますが、一日も経たぬうちに、いいしれぬ孤独感に襲われます。そんな時、骨董屋の主人レナート(ロッサノ・ブラッツィ)と出会い、思い出に「くちなしの花」をプレゼントされます。

翌日ジェインは着飾って彼の骨董屋に出かけますが、彼の店に青年が店番をしていました。青年はレナートの息子であることを聞いたジェインは彼の前から姿を消そうと考えます。滞在しているホテルにジェインを追ってきたレナートは妻と別居していると告げ、それから夢のような数日間を楽しみます。

思いが募るほど「このままでいたら別れられなくなる」ことを悟ったジェインは思い出深いヴェニスを後にします。

一つの恋は終わりましたが、二人には生涯忘れることのできない切ないけれど、素敵な思い出になったことでしょう。

次ページは、日本の美と夫婦の絆を描いた『阿弥陀堂だより』を紹介します。
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