サビとメロ
博士:さて、楽曲的には真っ先に感じた印象が「まずサビから浮かんだ!」って感じの曲だなぁって感じです。非常に印象的で流れるような極上のメロディーですよ。キュートでお洒落で言う事なし。中田Pは、すでにメロディーメーカーとして昇華した感があります。
ただ、その分おそらく他部分で相当苦労したようにも感じますね。曲全体を見ると、このサビに向けて流れるようなメロディーて終始貫徹されている・・・と言うより、珠玉のサビになかなか他の部分が浮かばず、かなり悩んだ結果に再構築したような印象を感じます。まず形式的にはA-B-サビと言う本来の歌謡曲とは少し違いますね。冒頭の“ワンルームディスコ♪”の部分。順序的にはAメロといえるのかもしれませんが、サビ的な存在感です。
先生:
確かに面白い構成の曲ですよね。サビとメロの定義が難しいですが、こんな風に聞こえます。
イントロ→サビ(ワンルーム~)→Aメロ(なんだって~)→Bメロ(新しい場所で~)→サビ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→Bメロ・・・
「Dream Fighter」はサビから始まりましたが、サビの前に不気味なイントロを持ってきたのが、効果的。Aメロからだんだん上がっていく焦らした感じが通常の歌謡曲的ではないです。2順目だけCメロがあるというのも、面白い。capsuleの「JUMPER」なんかもそうですが、変な構成の曲が好きですね、中田Pは。
博士:
Aメロがちょっと「マカロニ」「願い」等の最近の中田節の方向性を感じるメロディーです。起伏のある印象的なサビに対して、コード的にもメロディー的にも抑揚を抑えたやや機械的なこの部分のアプローチは理論的には有りなのですが、メロディーの傾向がサビと少し異なります。
研究生:
理論はよくわからないのですが、僕も博士と同じことを感じました。
“ディスコ ディスコ”のパートとAメロをつなぐ、かしゆからしきつぶやきは興味深いです。ディスコ気分を盛り上げるためのフェイクなのでしょうが、実は異なる構成を持つメロディー同士をつなぐ鍵なのかも。弦楽器における「スライド・グリッサンド奏法」のような狙いも含んでいるように聴こえます。
博士:
先行でタイトルを知った時からちょっと語呂が悪いなぁとは思っていたんです。でも中田Pなら凡人の及ばない極上のメロディーに乗せるか、あるいはあえてリフレインフレーズから外すだろうなぁと予想しながらもふざけて“チョコレイト・ディスコ”のメロディーに乗せたりして“ワンルーム・ディスコ♪”なんて鼻歌でやっていたのですが、なんと本当にそのまま来ちゃったって感じ。果たして苦心の後苦渋の選択なのか、あるいは計算されつくした狙いがそこにあるのか・・・謎ですね。
研究生:
中田Pがディスコ”的サウンドへどうアプローチしていくのかを注目していました。リズムパート・・・特にベースラインはモロにディスコ歌謡ではないでしょうか。“ンベンベ”と鳴る、ディスコっぽいフレーズが楽曲のそこかしらで効いていますね。洋楽と結びつけようとするならばニューエレクトロというよりも、そのルーツとなる90年代フレンチハウスといったところでは。
先生:
確かに、フィルターディスコではありませんが、ディスコねたのフレンチハウスっぽいですね。
研究生:
先生はイントロ箇所の上物を評するのにダフト・パンクを挙げておられますが、リズムパート全体のニュアンスに関しては、同時期に活躍したカシアスも思い浮かびました。当時のダフト・パンクほどのウネりはなく、もう少し“硬い”のかな。でもパッと聴きの印象は、やはりドメスティックなニュアンスが強い、まさに“ディスコ歌謡”のイメージ。すごく懐かしい感じがします。ディスコ歌謡にありがちな“エロス”は感じられませんが。
特に“ディスコ ディスコ♪”のラインを追いかけるシンセフレーズ。人それぞれの解釈があるのでしょうけれど、僕は島田奈美や伊藤智恵理など・・・透明感のあるメロディを歌う正統派アイドルが頭をよぎりました。80'sアイドルポップス的な演出という解釈です。
このフレーズを最初のサビで聴いた時は「え?どうして今さらこんなベタなことを・・・?」 と戸惑ったんです。ところがAメロ前半からバッキングのリズムを刻んでいるシンセの音色とつなげて聴いていると、1番後半のサビでこのフレーズが俄然生きてくる。遊びのオブリっぽいフレーズですが、この曲の春っぽいキラキラ感、爽やかさ、透明感などを表現するとても重要な要素なのではと捉えています。