確信犯エキスポ
――その後、岸野雄一さん、常盤響さん、Mint-Leeさんと"コンスタンス・タワーズ"として活動しながら、"もすけさん"の山口優さんとエキスポを結成し、あのアルファ・レコードから幻のアルバム『エキスポの万国大戦略』(1987年)をリリースされるわけですが、このアルバムは、「銀星クラブ・テクノポップ」によると、「間違いのコンセプトをちりばめた現テクノ界屈指のユニット」と紹介してありますね。踏み外した感じのエキスペリメンタルなゲーム・ミュージックの発展系といった感がありますが、何かインスパイアされたものはあるのでしょうか? しかし、聴いているとムズムズします。先ずいきさつとしては、当時、まだまだライヴハウスでシンセや打ち込みバンドがライヴをやる、というのは少なかったんです。結果として趣味の近い面白いバンドといろいろ知り合う事が出来たのですが、自分の作ったデモテープをそういう友人に渡したりしていたんです。そのなかに"もすけさん"の山口優がいて(実際には、山口優と岸野達はナイロン100%などで交流し、接点はあった様ですが)、アルファ・レコードからCDを出す話を山口に誘われました。僕のソロのデモテープをもっと発展させたら面白いものが出来る!と山口が感じたみたいで、これを元に二人で制作活動が始まりました。他にも山口の曲、共作などいろいろ作ってLDKスタジオや、アルファ・レコードのスタジオA などでレコーディングしました。
基本コンセプトになったのは、僕がProphet600というシンセで作ったデモについて山口と話し合いしたのがきっかけです。このシンセに内蔵されているシーケンサーがいわゆるステップレコーディングのものではなく、リアルタイムのみのものだったんです。つまり「ヘタクソ」に演奏したものがそのまま反復される。そもそも「機械」って正確に忠実に再現するけど、例えば一旦エラーを起こすと、エラー自体も繰り返す、という事にもなりますよね? 人間の演奏ミスならミスを繰り返しはしない。その「機械の頭の固さ」自体が愛おしい、かしこそうで頭悪い! あるいは「極めて複雑なヘタクソ感」も再現してくれたり、自分では無意識にさっきのProphet600の話のような機材の独特な機能、バグや機能の限界も積極的に利用した作曲法をやっていたのですが、山口と話をしているうちにそれ自体がコンセプトになるという事がわかってきたんです。
そういった「ミスをおかすダメロボット」たとえばロボットって人間の形をしてる必要ないじゃないですか? でもそんな「未来感はあるけど、人間が世話してやらなくちゃいけない機械」みたいなものが、エキスポ70で体験した「未来感」まさにそのものだったので、バンド名を決めました。岸野雄一がコンスタンス・タワーズのライヴで語った「スポイト」についての考察もきっかけの一つです。スポイトのスポは、スポッと吸う点で納得がいくが、本来、液をスポッと吸うのなら、エキスポという言葉の方がスポイトよりもふさわしい名ではないか?」というもの。
――雑誌「TECHII」に掲載された広告によると、CD、LP、カセットとで全部ミックスが違うそうですが、どうしてそんな手の込んだ事をされたのでしょう。そして、CDの再発を望む声も多いみたいです。
山口も僕も意地悪を仕掛けるのが多分大好きなんだと思います。「隠れキャラ」とか、そういうものはかなりたくさん作品の中にちりばめられています。例えば、この楽器のこのプリセット音をこんな使い方したら、むちゃくちゃダサいよね?とか、まさかこんな所でこの音はないでしょ?とか、エラー、禁則、意図的な間違いをちりばめてます。「運転してたら絶対事故おそしそうなので聴けない」と何人にも言われました。これは最大の誉め言葉ですね。ちょうど「環境音楽」なんて言葉がオシャレに語られだした時代だったので、もうこれもコンセプトにして「反環境音楽」、絶対無視出来ない音楽にしました。とにかく逆の事したくなっちゃうんです(笑)。流行ってると、正反対の事やって「ダサいでしょ」とか?
で、ミックスに関してはエラーと言えば「針とび」がありますよね?87年はちょうどCDが出始めた頃だったんで、誰よりも最初に、CDにデジタルのエラー音、CDの音とびを入れたかったんです。かなりお願いしたんですが、残念ながらこれは許可されませんでした。アナログ版は針とび、カセットでは、キュルキュルとカセットが巻き付いちゃう音、どれも実現できなかったんですが、とりあえず別ミックスにするアイデアだけは許可されたので、LPとCDで全曲ミックス違いにしました。といっても今でいう所のリミックスと同じでミュートする楽器が違うとか、何がどこで出てくるかタイミングが違うとか、そういうものが多いです。カセットはCDと同じミックスを使う事になりました。