B-2. 中国女
こちらは、数年前にヴィデオで発売されたものを私は所有しています。内容は、「東風」と同様に政治的で、毛沢東の革命理論に傾倒するフランスの大学生を描いたものですが、思いきり敷居が高い映画で、文化大革命前後の時事的状況、毛沢東やレーニンをはじめとする各革命家の理論、ベトナム戦争が起きた背景、および芸術全般について、相当の知識を要求する内容で、実験的な画像と相まって一般人にとっては、非常にわかりづらい作品です。実は、僕もあんまり解りません。
ところで、坂本龍一のファースト・ソロ『千のナイフ』ですが、冒頭のヴォコーダーによる台詞は、毛沢東が作った詩の朗読、と言うのは御存じですよね。(坂本龍一は毛沢東に著作権料を払ったのでしょうか?)と、なれば「中国女」という楽曲のタイトル命名者が一体誰か、容易に推定できるのではないでしょうか。
それは置いておくとして、「La Chinoise 」。この映画についての個人的な感想は、とにかく色彩感が良いです。たとえゴダールの政治的メッセージが解らなくとも、映画の鮮烈な色彩感覚には唸らせるものがあります。また、「La Femme Chinoise」の間奏に、この映画からのセリフが挿入されているのは有名な話。実は、僕がこのヴィデオを購入した理由は、一体、この映画のどの部分で、例のセリフが使われているのだろう、と言う疑問からです。
僕、フランス語は、さっぱり判らないんですが、数回見た限りでは、布井智子嬢が喋る一連のフレーズが、そのまま聞こえる部分は無いように感じました。ひょっとして布井嬢が喋っている内容は、ある特定のシーンのセリフをそのまま持って来たのでは無く、あちこちの場面からのセリフを寄せ集めているのかも知れません。(と、言うか、ライヴでオープニングを飾るあの有名なフレーズさえ、何処にあるか判別困難!)
いずれにせよ、布井嬢のセリフを選定したのは、「La Chinoise」の内容が理解できる「中国女」のタイトル命名者である可能性が濃厚です。
ところで、「La Femme Chinoise」の歌詞(クリス・モスデル作詞)には「Susie Wong and Shanghai dolls」と言うくだりが出てくるのは、みなさんご存知かと。
また、ティン・パン・アレイの『Yellow Magic Carnival』に収録されている「Hong Kong Night Sight」の歌詞(松任谷由美・作詞)にも「心優しい彼女の名はSuzie Wong」と言う一節があります。この曲は、松任谷由美が『水の中のASIAへ』でカバーしているので、むしろそっちの方が有名かも知れません。
また、横山剣(クレイジー・ケン・バンド)のアルバム「狂剣的世界」の「スージー・ウォンの世界」にも「湾仔あたりは、スージー・ウォンの世界」と言う表現があったり。
かように、一部では有名な女性「スージー・ウォン」ですが、これらの歌詞が描いている「スージー・ウォン」のイメージは間違い無くナンシー・クヮン主演・リチャード・クワイン監督のアメリカ映画「The World of Suzie Wong」からです。この映画は、1960年頃の香港(上海でないのが残念)を舞台に、貧民街で子供を育てているコール・ガールのスージー・ウォンと、ぶらりと香港に来た米国人の画家とのロマンスを描いたもの。
映画を観れば納得できると思いますが、人々の汗が喉伝い、活気が溢れる町並み、南シナ海を遊弋するジャンク(黄海でないのが残念)、裾の割れた絹の服など上記3曲が描いている情景をバックに、東洋の香漂うミストレス、スージー・ウォンが堪能できます。