新鮮なインスピレーションを与え続ける秀作『ブルースエット』
■カーティス・フラー『ブルースエット』ジョン・コルトレーン『BLUE TRAIN』で、サイドマンとしてハードバップサウンドを演出したトロンボーンプレイヤー、カーティス・フラーの代表作が、今回紹介する「ブルースエット」である。
いわゆるジャズ「名盤中の名盤」の典型例であり、「このジャズを聴け!」的な企画では必ず取り上げられる1枚である。すでに紹介されつくした感もあり、ガイドもあまり新鮮味のあることを書けるわけではないのだが、今でもときどきかけると新鮮さを感じる一枚でもあるので、ぜひともご紹介したいと思った次第だ。
タイトルチューンである「ブルースエット(Blues-ette)」がその典型だが、本作の大きな特徴は、複雑かつ繊細で美しいハーモニーである。ベニー・ゴルソンのテナーとフラーのトロンボーンがテーマを美しく織り上げている。
録音は1959年。日本ではテレビ朝日、フジテレビなどのキー局のテレビ放送が始まった年である。ジャズの歴史的にはハードバップ全盛期であるが、この年最大の出来事といえば、やはりマイルス・ディヴィス『カインド・オブ・ブルー』の録音であろう。60年代のモード奏法の流行、コルトレーンの隆盛、フリージャズへの展開といった激動の時代の幕開けであったわけだが、それは後世に振り返った私たちが抱く感想であり、当時の業界的には、むしろこの「ブルースエット」の世界、つまりは高度にアレンジが行き届いたハードバップの時代であったと考えたほうが正確であると思う。
次ページでは、本作の聴き所を紹介