「古武術」と「楽器演奏」……とてもじゃないが結びつかないように思える組み合わせだが、両者を実際に結びつけようと試みている人がいる。それも素人ではなく、プロのクラシック演奏家である。

身体の使い方を変えれば、音が変わる

フルート演奏家の白川真理さんは、数年前から武術研究者の甲野善紀氏に師事している。フルート専門誌上で古武術の発想を演奏に活かす方法について連載を持った。現在も2か月に1回、甲野氏を講師として招いての「音楽家講座」を開催。参加者たちは、甲野氏が見せる不思議な身体運用に少なからず衝撃を受け、自身の演奏法への応用方法を模索しているという。

映画「甲野善紀身体操作術」より。甲野氏の指導を受ける白川氏。
映画「甲野善紀身体操作術」より。甲野氏の指導を受ける白川氏。
2006年12月に公開される、武術研究者・甲野善紀氏を追ったドキュメント映画「甲野善紀身体操作術」より。スポーツはもちろん、音楽、ダンス、演劇、さらには宇宙飛行士まで、さまざまな分野に影響を与え続ける甲野善紀氏の一端を知ることができる映画だ。配給:アップリンク。(写真提供アップリンク。写真をクリックすると、映画の情報ページにジャンプします)
白川氏はアレキサンダーテクニックなど、さまざまなフルート奏法を試みてきたが、小柄な身体の白川氏にとって、それらの技法が要求する姿勢・奏法は、身体への負荷がきつかった。そんな時、甲野氏の「ねじらない、ためない、うねらない」という言葉に出会った白川氏は、講習会に参加。そこで感じた甲野氏の身体の使い方と、発想法に強い可能性を感じたという。

その後、白川氏は甲野氏からのヒントを元に、演奏法を工夫。従来のフルートの構え方では、どうしても胴体がねじれてしまい、肺が圧迫されたが、着物を着て着崩れしないように身体を保ち、従来法と逆に構えてみたところ、息が楽になり、音が飛躍的に豊かになるなど、効果を実感するようになった。

白川氏は、現在も練習時間の多くを和装や下駄で過ごし、コンサート時にも和装を用いることもあるという。豊かな音へのあくなき探求の中で、古武術と音楽が、不思議な邂逅を果たしたのだ。

→次ページでは、白川氏の演奏を変えた、甲野善紀氏の実践と発想法に迫る!