ボサノヴァを支えた天才演奏家
ジョアン・ジルベルト(1931-)は、ボサノヴァの歴史を語る上で、はずすことのできないミュージシャンです。ヴィオラン(クラシックギター)のフィンガーピッキングで奏でる、いわゆるボッサ・ギター奏法の創始者。さまざまな奇人変人伝説の残るジョアンの才能が、ボサノヴァを世界の音楽に押し上げる原動力となりました。■スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト『ゲッツ/ジルベルト』
スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト『ゲッツ/ジルベルト』 64年作品。人気白人サックス奏者、スタン・ゲッツの企画のもと、ジョビンやジョアン、アストラット・ジルベルトなどが共演。ビルボード96週連続チャートインなど、異例の大ヒット盤となった。 |
本作『ゲッツ/ジルベルト』の大ヒットによって、世界中の人たちが、ジョアン・ジルベルトの名前と、そのギタースタイルを知りました。60年代半ばといえば、モダンジャズが爛熟・衰退の兆しを見せ、そして、ロックンロールが世界を席巻しようとしていた頃です。
そんな時代に、南米・ブラジルでは、どこ吹く風という面持ちで、淡々と新しい音楽を刻んでいた。このアルバムによって、世界中の人がそのことに気づいたのです。
■ジョアン・ジルベルト『三月の水』
ジョアン・ジルベルト『三月の水』 73年作品。パーカッションと、ジョアンによるギター&ヴォーカルのみというシンプルな編成が、ジョアンの天才性を浮かび上がらせる。ボサノヴァの真髄といってもいい、リズムと歌心がここにある。 1. 三月の水 2. ウンディユ 3. バイア(靴屋の坂道で) ほか |
ブラジル北東部のバイーア州に生まれたジョアンは、15歳の時に父親から譲り受けたギターのとりこになり、通っていた中等寄宿舎学校を退学。音楽活動に専念するが、花開かず、20代の前半はマリファナ中毒であったという話も残っています。
その後、姉の家に居候し、バスルームに年中閉じこもってギターをかきならし、歌い続けました。その生活の中で、サンバのリズムをギターだけで表現するバチーダ奏法を開発したと言われています。(これが後のボッサ・ギターです)
そうしたジョアンの、天才的な弾き語りの技巧は、少人数編成のほうがよりビビッドに楽しむことができます。本作『三月の水』では、パーカッションとともにジョアンの弾き語りを存分に楽しむことができます。
■ジョアン・ジルベルト『ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー [Live]』
ジョアン・ジルベルト『ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー [Live]』 2004年作品。2003年の、「奇跡」と言われたジョアン・ジルベルト初来日公演のもようを押さえたもの。当初、ライブ版発売の予定はなかったが、ジョアン本人が来日公演の内容を高く評価し、本人用に録音したDATテープを音源に発売が実現した。 |
本作はその1年前、2003年の初来日のもようを収めたもの。お聞きになればわかるように、ギター1本による弾き語り。東京国際フォーラムに集まった5000人を超える聴衆は、この静謐な演奏を前に、声も出せないほどの感動を味わったわけです。
天才というのは時に、周囲が求めている以上の高みに上ってしまうものです。ジョアンのギターはすでに、ボサノヴァというポップミュージックの範囲を超え、現在・リアルタイムで体験できるもっとも質の高いミュージック・アートの1つといえる存在になったのではないかと僕は思います。
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