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ブルースファンのための入門編……名盤を紹介!

今回は、ブルース初心者の方でも楽しめる名盤をご紹介いたします。ジャズをはじめ、多くのアメリカ音楽のルーツであるブルースを理解すれば、ジャズを100倍楽しめるはず! ブルースなくしてジャズもなし。今よりもずっとジャズが楽しくなってくると思います。

執筆者:鳥居 直介

ブルースの名盤……ブルースなくしてジャズもなし⁉

ブルースの名盤

ブルースの名盤

今回のテーマはブルース。ジャズ、ひいてはすべての黒人音楽のルーツとも言われるブルースですが、現在では非常にマイナーなジャンルといえます。しかし、「ブルースなくしてジャズもなし」というのも、動かせない事実。ジャズにとって欠くべからず要素であるブルースについて理解することによって、今よりもずっとジャズが楽しくなってくると思います。

amazon.co.jpにあるCDは、ジャケ写にリンクしています。
 
<目次>
 

ジャズに息づく「ブルース」

Strange Fruits
Billie Holiday『奇妙な果実』
売春で投獄、麻薬所持で逮捕。破天荒な生き様の一方で、天性の音色をもったすばらしい声と、幼い頃からの音楽キャリアによって培われた音楽性によって、歴代のジャズヴォーカリストの中でもトップクラスの人気を誇るビリー・ホリデイ。本作は彼女が1939~44年に残した名唱から構成されている。タイトル曲「奇妙な果実」はあまりにも有名。
■ビリー・ホリデイ『奇妙な果実』
さて、一口に「ブルース」といっても、さまざまな意味合いがあります。詳細な用語解説は別稿(用語解説「ブルースってなに?」)に譲ることとして、ひとまず音源を聴いてみましょう。

初めにご紹介するのはビリー・ホリデイの『奇妙な果実』。原題のstrange fruitsが意味するのは何か、皆さん想像がつくでしょうか? (The Unofficial BILLIE HOLIDAY Websiteで原詩を見ることができます)

冒頭部分を少し私が訳してみましょう。
 
南部の木々には奇妙な果実がなっている
葉や根には、血がしたたりおちている
黒いからだが南風に揺れている
奇妙な果実がポプラの木々に吊されている

(Lewis Allen作の詞「Strange Fruits」冒頭部分。訳は筆者)

 
だいたい想像がついたでしょうか。そう、「奇妙な果実」とは、リンチに遭い、木に吊された黒人の死体のことなのです。実際、20世紀の前半まで、アメリカ南部諸州における黒人へのリンチは横行していました。あのマイルス・デイヴィスも、黒人へのリンチ事件に対して「胸が悪くなった」と自叙伝に書き残しています。

ビリーは、この歌詞をみて「ぜひ自分で歌いたい」と申し出たと伝えられています。「strange fruit」は、楽曲の構成上ではブルースではありません。しかし、ビリーの歌い回し、節回し、そしてそこに込められた感情は、やるせない悲哀そのもの、ブルースそのものだったと言えるでしょう。

ジャズの場合、楽理的な話をするなら、ほとんどの演奏にブルースの影響を見ることができます。ブルーノートの多用やシャッフルのリズムなどを使わずに「ジャズ」を演奏することは不可能です。しかし、ジャズファンが演奏や歌を「こいつの歌はブルースだ」とか、「あいつの演奏にはブルースがない」という言い方で評する時、ブルースという言葉はかなり文化的、精神的な「在り方」を表現する言葉になっています。

用語解説「ブルースってなに?」でも論じましたが、ブルースの真骨頂は、「悲哀を明るく歌い上げること」と、「個人主義、自己表現」にあります。そして後者は、ジャズ、ブルースにおける黒人達の個性的なファッションや言動、そして音楽表現に強く表われることになるのです。

ここでは、そうした「ブルース精神」に溢れたジャズミュージシャンの作品をご紹介していくことにいたしましょう。
 

ブルースしなけりゃ意味ないね

「ブルースしかできない」ミュージシャンは、ジャズ界では(残念ながら)無能扱いされがちです。ブルースは理論的には非常に単純で、感覚・感性が支配的な音楽であること、また、ブルースが持つ独特の泥臭さから、そういった評価が出てくるのだと思います。個人的には「ブルースのないジャズ」なんて聴いていられない、と思うのですが。

ともあれ、テーマがブルースであれスタンダードであれ、何を演奏しても「ブルース」が顔を出す。こういう人たちの演奏を、ジャズ用語ではアーシー(earthy)とか、ファンキー(funky)といった言い方をします。アーシーは直訳すると「泥臭さ」。ファンキーも激しさや土臭さを表わす言葉。要するに、ブルースフィールに溢れたジャズのことをファンキー、アーシーと呼ぶわけです。

以下に紹介するのはそんなファンキージャズの申し子とされる人たち。難しいことができないのか、やらないのか、それはひとまず問わないでおきましょう(笑)。とにかく、彼らが持つ音楽的磁力が強力なものであることは確かなのですから。

■グラント・グリーン『フィーリン・ザ・スピリット』
グラント・グリーン『フィーリン・ザ・スピリット』
グラント・グリーン『フィーリン・ザ・スピリット』
1962年作品。ゴリゴリと太い単音フレーズが続くグリーンワールド炸裂の一枚。ピアノはあのハービー・ハンコック。途中、プレーヤーが故障したのかと思うかもしれないくらい、リピートフレーズが続く。
「ブルース」と「ジャズ」の結節点ということで、私がどうしても忘れることができないのがグラント・グリーン(g)だ。ブルースの世界では主役の座を占めるギターだが、ジャズではピアノやサックスに比べ、どうしても地味な印象がある。ギタリストの皆さんは、ジョー・パスらのジャズギターを耳にした時、その超絶テクニックに感嘆すると同時に、サックスに比べて地味で、どこかうら寂しい感じを抱いた記憶があるかと思う。

グリーンは、そんなジャズギターへの地味な印象を変えてくれるギタリスト。とにかく音が太く、強い。あくまで短音で攻めるソロプレイは、本職のブルースギタリストを思わせる大胆さである。本作は、彼の作品の中でも人気の高い1962年録音のもの。ピアノにハービー・ハンコックが参加しているところも聴き所。
 

■ジミー・スミス『ザ・キャット』
ジミー・スミス『ザ・キャット』
ジミー・スミス『ザ・キャット』
64年。一言でいって「熱い」ジミー・スミスのオルガンを美しいアレンジのもとで聴ける一品。クラブシーンでも引用されるキャッチーなメロラインが楽しい。

ジャズのオルガン奏者で、ブルースフィールが少ないという人を見たことがない。私はまったく弾けないのだが、楽器の特性上、ブルースとの相性の良さがあるのかもしれない。何にしても、ファンキージャズを語る時にオルガンジャズ、そしてその創始者であるジミー・スミスの存在は外せない。

もしもブルーノートのアルフレッド・ライオンがジミーと出会ってなかったなら、彼の残した膨大な音源に私たちが触れることはなかったし、ファンキージャズの発展そのものが10年は遅れることになっていただろうと思う。

本作はジミーのヒット作の1つ。「危険がいっぱい」で知られるラロ・シフリンがアレンジ・指揮した1964年録音の傑作で、商業的にも成功した作品。トランペット6本にホルンやチューバといった変則オケやケニー・バレルの渋いギターをバックにジミーが豪快なソロを炸裂させる。表題作「ザ・キャット」のキャッチーなテーマを元に展開していく、ジミーの熱いソロは必聴。
 

■ルー・ドナルドソン『アリゲイター・ブーガルー』
ルー・ドナルドソン『アリゲイター・ブーガルー』
ルー・ドナルドソン『アリゲイター・ブーガルー』
1967年にブルーノートレーベルに復帰したルーによる大ヒット作。タイトルチューンである(1)アリゲーター・ブーガルーはビルボード93位を記録した。

ストレート・アヘッドなジャズと同じく、ファンキージャズでも主役はやっぱりホーンセクション。中でもアルトサックスが花形であることは他のジャズと変わらない。本作は1967年にブルーノートレーベルに復帰したルー・ドナルドソン(sx)による大ヒットアルバム。タイトルチューンである(1)アリゲーター・ブーガルーはビルボード93位を記録した。

全体的にR&B色が強く、ジャズとしては単純なアレンジが目立つ本作を白眼視するジャズファンも少なくない。でも、この脳天気さには紛れもないブルースがあると僕は思う。ルー自身は、「ものすごく時間をかけて丁寧に作り上げた作品が売れなかったのに、それこそ鼻歌交じりに録音したようなアリゲーター・ブーガルーがヒットしたんだ」と嘆いていたようだが、ルーの魅力はやはり本作のようなストレートでブルージーなサウンドにあると思う(私は、ルーが自ら「力を入れて作った」と語る作品群が、あまり好きではない)。「ポストモダンジャズ」の時代に生まれ育った僕らにとって、「単純さ」というのはさほど忌み嫌うべきファクターにはならない、ということかもしれない。
 

■ジミー・スミス『ハウス・パーティ』
ジミー・スミス『ハウス・パーティ』
ジミー・スミス『ハウス・パーティ』
カーティス・フラー(tb)、ケニー・バレル(g)、アート・ブレイキー(dr)、リー・モーガン(tp)、ルー・ドナルドソン(sx)という豪華メンバーが参加した1957、58年のセッションを収録。同セッションは本作と『Sermon』に収録されている。

ジミー・スミス大先生をもう一枚ご紹介。先に紹介した『ザ・キャット』よりも、よりまっすぐにファンキー・ジャズをやっているのが本作。ジャケットがあまりにも濃いデザインで、タイトルも濃厚な香りを漂わせているため誤解を与えそうなのだが、中味は結構オーソドックスなジャムセッションアルバムである。1957、58年に録音されたセッションは本作と『Sermon』に収録されている。

参加者はカーティス・フラー(tb)、ケニー・バレル(g)、アート・ブレイキー(dr)、リー・モーガン(tp)、ルー・ドナルドソン(sx)など当時のジャズ界を代表するそうそうたる面々。聴き所は何と言ってもブレイキー、モーガン、ドナルドソンらが参加している(1)。ジミーが弾くハードバップのブルースフィールを感じてほしい。

ブルース色がさらに濃厚になるとジャズはどうなってしまうのか?
 

コテコテ・ジャズの世界へようこそ

原田和典『元祖コテコテ・デラックス―Groove,Funk&Soul』
原田和典『元祖コテコテ・デラックス―Groove,Funk&Soul』
ジャック・マクダフ、ジミー・スミス、ジェームス・カーター……とにかく濃厚で暑くるしいジャズばかりを集めたディスコグラフィ。「暑苦しさ」「同じフレーズ繰り返し度」など独特の評価基準で批評。コテコテへの愛に満ちた一冊。
悲哀を陽気に歌い上げる、ソウルフルで熱いプレイ。こうした傾向を持つアーシー、ファンキーなジャズがさらに、その熱さ(暑さ?)を煮詰めていくとどうなるのか? ジャズ批評家・原田和典氏はこれを「コテコテ」と表現しています。「この類」の音楽を表現するのに、これ以上の表現はありません。
 

■ジャック・マクダフ『ライブ!』
ジャック・マクダフ『ライブ!』
ジャック・マクダフ『ライブ!』
ファンキーオルガンの帝王・ジャック・マクダフの1963年のライブ盤。ギターには若き日のジョージ・ベンソンが参加。
前ページのジミー・スミスと聴き比べれば「コテコテ」が意味するところが理解できよう。下品さ、しつこさが前面に出た、暑苦しいコテコテワールドが展開される。70年代以降のマクダフ師はフュージョン系に転向してしまうので、コテコテ感のあふれるソロが聴きたければ、これくらいの時代のマクダフ師がよい。若き日のジョージ・ベンソンも参加しているが、彼も相当コテコテなブルースフレーズを炸裂させている。
 

■Jack McDuff with Gene Ammons『Brother Jack Meets the Boss』
Jack McDuff with Gene Ammons『Brother Jack Meets the Boss』
Jack McDuff with Gene Ammons『Brother Jack Meets the Boss』
ファンキージャズの帝王が邂逅。アモンズのブロウはこのアルバムが一番すばらしいのではないか、と個人的に感じている。意外に飽きの来ない、味のある一枚。
「ジャケ買い」というのは、音楽の中身はともかく、ジャケットのカッコよさで買ってしまう行為を指す言葉だが、これもジャケ買いしてしまった1つ。といっても、カッコいいと思ったわけではない。強烈な存在感を示す濃い顔のどアップ×2。その迫力に、買わざるを得なくなった、というのが正直なところ。ともあれ、このアルバムが私にとってのマクダフ初体験となったのである。

ジーン・アモンズのサックスは、近年のテクニカルかつ無調性な現代ジャズのサックスを聴きなれた耳には、かえって新鮮に聴こえるかもしれない。
 

■ダイナ・ワシントン『縁は異なもの』
ダイナ・ワシントン『縁は異なもの』
ダイナ・ワシントン『縁は異なもの』
女性ソウル・ブルースシンガーのカリスマ、ダイナ・ワシントンの代表作。表題作「緑は異なもの」はウォン・カーウァイ監督の映画『恋する惑星』でも使われていた。
オルガン、サックスと来て、どうしてもコテコテ・ヴォーカルをご紹介したいと思った。けれど、なかなかいい人が思いつかない。サラ・ヴォーンやビリー・ホリディがブルースであることは疑いないのだけれど、「コテコテ」と呼ぶには彼女らの歌はあまりにも格調が高すぎる。

だから、というわけではないのだけれど、ダイナ・ワシントンを紹介する。彼女のCDは通常、ジャズのコーナーにはおいておらず、ソウルやブルースのコーナーで手に入れることができる。しかし、代表作である本アルバムでは多くのスタンダードを歌いこなしており、実にブルースフィールにあふれた、ソウルフルな歌を披露している。
 

■ジェームス・カーター『ガーデニア・フォー・レディ・デイ』
ジェームス・カーター『ガーデニア・フォー・レディ・デイ』
ジェームス・カーター『ガーデニア・フォー・レディ・デイ』
ファンキー・サックスプレイヤーのジェームス・カーターによる、レディ・デイ=ビリー・ホリディへのトリビュート盤。
本稿の冒頭でご紹介した「奇妙な果実」を、コテコテ・ホンカーの現役最高峰・ジェームス・カーターが歌い上げている。ストリングスを加え、選曲も決してブルース一辺倒というわけでないにもかかわらず、ブルージーな雰囲気がむんむんと漂うのは、カーターの本領発揮といっていいだろう。
 
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