ジャズ/ジャズ関連情報

12月のジャズライブ情報(大西順子特集)

2005年12月に国内で行われるジャズライブ、イベントをガイドが特選。Pick Up Artist!では、今年4月、7年振りに復帰した伝説のピアニスト・大西順子を大特集します。

執筆者:鳥居 直介

2005年12月のガイド特選ライブインフォメーションです。都内ライブハウスを中心に、「はずれなし」のガイドお勧めライブを厳選してご紹介します。

<ライブインフォメーション欄の見方>
  • 日付順に掲載しています。
  • 各イベントごとに、ライブ名、お勧めポイント、出演アーティスト、日程/会場、チャージ料金、問合せ先の順にご紹介します。
  • アーティスト名の後のカッコ内は楽器の略称です。(ex.p=ピアノ、b=ベース、dr=ドラム、ts=テナーサックス、など)
  • 出演者、チャージ料金、開始時間の詳細などは必ず会場までお問い合わせください。

今月のPick Up Artist! 大西順子(p)復帰?

大西順子『セルフ・ポートレイト』
大西順子『セルフ・ポートレイト』
大西順子唯一のベスト版。強烈なハードタッチ、黒人的なグルーヴ感、そして繊細さ。才能あるミュージシャンは多くの矛盾した要素を同時に実現させる。大西順子入門の一枚。
「大西順子(p)が復帰」。そのニュースを耳にした時は「嘘だろう?」と思いました。彼女は実に7年以上も活動を休止していたのですから。

しかしニュースは本当でした。2005年4月5日(火)に大野俊三(tp)の帰国ツアーのメンバーとして吉祥寺サムタイムに登場。その後も本格的な活動再開に逡巡はあったようですが、このたび、12月6日(火)、新宿Dugに登場することが決まりました。一説によると、このライブを最後に再び活動を休止するという噂も(涙)。これは聞き逃せません!

■大西順子(p)@新宿「Dug」
7年の沈黙を破り活動再開した日本人ジャズピアニストの女王・大西順子が新宿「Dug」に登場!
【出演者】 大西順子(p) 、俵山昌之(b)、本田珠也 (ds)
【日程/会場】 2005年12月6日(火)/Dug(新宿)
【チャージ】4,700円
【問い合わせ】 →Dug

大西順子って誰?

ここ最近ジャズを聴き始めた方は「大西順子って誰?」状態かもしれません。しかし、92年のデビュー当時、23歳の大西がジャズ界に与えた衝撃は、現在の上原ひろみ(p)以上のものがありました。

まだ若手女性ジャズミュージシャンが珍しい存在であり、また本格派ミュージシャンが大手レーベルからそっぽを向かれていた当時、大西は大手中の大手である東芝EMIから売り出された「紛れもないホンモノ女性アーティスト」だったのです。

これは、大西のビジュアル面、言動(寡黙)の格好良さ、全体から発散するスターとしてのオーラに商品価値を認めた東芝EMIの慧眼を評価してよいところでしょう。商業主義とアートが幸福な握手を交わした瞬間といえます。

いずれにしても、大西順子の存在感は、性別を超えて、1人のミュージシャンとして大きなインパクトを持っていました。活動再開を1人のファンとして非常に喜んでいます。願わくば今後も、マイペースで活動していただければ、と。

■大西順子トリオ『WOW』
大西順子トリオ『WOW』
大西順子トリオ『WOW』
92年録音の大西順子衝撃のデビュー作。日本人離れしたファンキーさ。性別に関わらずこれほど「真っ黒」な演奏をする日本人はあまり例がなかった。
1.ザ・ジャングラー
2.ロッキン・イン・リズム、ほか
92年録音の大西順子衝撃のデビュー作。長い髪が美しい、20代前半の美しい女性。そうしたビジュアル、性別、年齢といった些末な情報から生ずる色眼鏡を数秒で粉砕した快作。

ただ当時の評論誌が、「強力なタッチ」「パワーにあふれたブロックコード」といった「男勝り」的フレームワークで彼女を評論しようとしていたことには違和感を感じる。

彼女がやったことは、男性的な演奏ではなく、徹底的に「黒い」演奏だった。日本人だって黒い演奏ができるんだ、ということを私は大西順子で知ったのだ。もちろん、黒い演奏ができる日本人は彼女以前にたくさんいたのだけれど、そのことを「既成事実」にしたのは彼女の手柄だったのではないか。私はそう考えている。

■大西順子トリオ『ビレッジ・バンガードII』
大西順子トリオ『WOW』
大西順子トリオ『ビレッジ・バンガードII』
94年5月の米国「ヴィレッジ・ヴァンガード」での演奏を収録。若干25歳の日本人女性が1週間リーダー出演するということで、日本のみならず米国のジャズ界でも大きな話題となった。
1.ハウス・オブ・ブルー・ライツ
2.ネヴァー・レット・ミー・ゴー
3.ブリリアント・コーナーズ
4.りんご追分
5.ティー・フォー・トゥー
大西の魅力を語るのにライブ演奏は欠かせない。本作は94年5月に米国の名門ジャズクラブ・ヴィレッジ・ヴァンガードの演奏を収録したもの。若干25歳の日本人女性が1週間リーダー出演するということで、日本のみならず米国のジャズ界でも大きな話題となった。同タイトルでI、IIが発売されているが、演奏のドライブ感は間違いなくIIのほうがよい。

■大西順子『ピアノ・クインテット・スイート』
大西順子『ピアノ・クインテット・スイート』
大西順子『ピアノ・クインテット・スイート』
95年7月録音。スタジオ録音ではもっとも評判のいい一枚。サックスの林栄一が参加したワールドワイドなメンバーによるクインテット。
1.ピアノ・クインテット・スイート
2.ペギーズ・ブルー・スカイライト
3.インタールード1、ほか
95年7月録音。大西順子のスタジオ録音では、おそらくもっとも評価の高い作品。当時乗りに乗っていた林栄一(sx)、マーカス・ベルグレイヴ(tp)、ロドニー・ウィテカー(b)ら米国の実力派ミュージシャン、マダガスカル出身でパリ在住の若手ドラマー、トニー・ラベソン(dr)のクインテットという、強力な布陣で録音が行われた、非常に完成度の高い一枚。

大西の音楽に影響を与えたミュージシャンとしては、セロニアス・モンク、デューク・エリントンらが上げられることが多いが、本作で2曲採り上げられたチャールス・ミンガスも、大西の音楽観を形作った重要なミュージシャンであることが示唆される。

■大西順子『フラジャイル』
大西順子『フラジャイル』
大西順子『フラジャイル』
98年7月録音。エレピ、エレベを導入したロックアレンジで、これまでのストレート・アヘッドなファンキージャズ路線から方向転換をはかった実験作。本作を発表後、大西は長い活動休止に入った。
1.フェアトーン
2.コンプレクションズ
3.ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン
4.コンペアード・トゥ・ホワット
5.ヘイ・ジョー
6.ユーロジア・ヴァリエーション
7.サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ
今になって見ると、思い詰めたような表情のジャケ写が象徴的だと感じる、東芝EMIでの最後の作品。このアルバムの録音以降、大西はジャズの表舞台から謎の失踪を遂げる。クリームやジミ・ヘンドリックスの楽曲をレパートリーに取り入れた実験的な作品である。

個人的にはさほど好みの作品ではないけれど、アーティストである大西順子の実見精神が十分にかいま見られる作品。「この後どうなっていくのだろう?」という好奇心がそそられる雰囲気はあった。

活動中止には無論プライベートな事情が多くかかわってきたのだろうけれど、大西の取ろうとしたアーティスティックな方向性への舵取りが、東芝EMIの販売戦略と相容れなかったといううわさ話も十分に説得力がある。

→次ページは2005年12月前半のライブインフォメーション!
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