注目の作・演出家、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の新作
現代の会社と未来都市の収容所。ふたつの物語が同時に進行していきます |
実はこの作品、前売券はすぐに完売。独特な世界観を描き出す作風で注目されている劇作家の一人、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の書き下ろしを、小泉今日子さん、堤真一さん、松尾スズキさんなどの豪華キャストが演じるとあれば、演劇ファンでならずとも興味をひかれませんか?
ちなみにケラリーノ・サンドロヴィッチさんというのは日本人のオジサマですので、誤解なきよう(笑)。独特のシュールさや研ぎ澄まされた言葉選びにファンが多いケラ氏。上演時間が長いのも彼の作品の特徴ですが、冗長に感じたことはありません。通常2時間前後が一般的な演劇で、今回の作品は3時間半(休憩込み)! 今回も、その3時間30分をあっという間に感じさせる力にはただただ脱帽でした。
この『労働者M』は、ふたつの物語が交互に、時には混合して進行していく物語。役者さんもそれぞれの世界で、別のキャラクターを演じています(役者さんって、すごいなあ)。
舞台のひとつは現在のある会社。表向きは自殺志願者を救う電話相談場ですが、実は相談社に高価な品物を販売するネズミ講。社員ももともとは、ここに電話をかけてきた人々の集まりだといいます。もうひとつは未来の収容施設。時代設定は明確にされていませんが、(土星との)戦争により壊滅した世界の収容所のようでした。
実は本編が始まる前、ちょっとした「おことわり」がありました。この芝居は2つの世界の話が併行して進行すること、そして、大事なセリフが欠損することがあることなどが前もって観客に伝えられます。「欠損って……」と不安になる客席(ガイドもです)。実際に芝居を観てみると、たしかにそのとおり。ストーリーが見えてきたな、と思ったあたりで、その「欠損」にすっきりすっぱり裏切られます。それはもう、気持ちいいくらいに。会話が肝のケラ氏の作品で、肝心なところで台詞がかき消されたり、フェイドアウトしたり……。話の流れはわかる。でも全体像が見えない──そんな状態のままで、芝居は坦々と進行していき、そしてそのまま終演を迎えることになります。
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