若い二人の将来と、自分の絶望と
能にも『俊寛』という謡曲があるのだが、ここには海女千鳥は出てこない。近松門左衛門の人形浄瑠璃がベースになっている義太夫狂言。こちらの原作には千鳥が出てくる。千鳥の存在が、流人たちの希望の光を象徴しているようで、舞台も華やかになる。
さらに歌舞伎では、ラストシーンで俊寛が「おおい、おおい」と叫ぶ、その役者の表情、声、姿がなんともいえず哀しみを誘う。海の中の孤島。大きな岩にすがりつき、消え行く船に手を振る。
どう考えたってこの後俊寛は生きてはいないだろう。
直前まで、赦免状に自分の名がないことに驚き「そんなばかな」と吼えていたのに、妻・あづまやの事情を聞いた後、なにかが彼の中で壊れてしまったかのようだ。
千鳥と少将という流人たちの希望の星のカップルを、なんとか都へ行かせたいという気持ちもあるだろうし、戻っても平家の世に絶望したのかもしれないが、やはり妻子がいない都へ帰る自分が想像できなかったのではないだろうか。