芝居の中身そのものの観方にも影響を与える。
・役者の演技と客席の反応のタイムラグを感じるのだ。役者の所作、表情、台詞に対して、桜席で観ている自分自身が反応するタイミングと、正面の客席の反応にもタイムラグがある。
正面客の方がちょっぴり遅いのだ。
・桜席のお客さんたち共通の反応に、「拍手をあまりしない」というのも気になった。
これは悪気ではなく、拍手できないのだ。役者と、舞台と、どこか一体感を感じていて、役者が拍手をしないのと同じように拍手しにくい気分なのだ。
つまり、役者の一挙手一投足を観る、というより「体感」している。
役者と一緒に呼吸している感じ。息苦しくなるくらいだ。
・役者がどのくらい表情の動きや所作を強調させているのか、させないのか、これも手に取るように分かる。判官が師直にいびられている最中、次第に判官は怒りを抑えて肩を上げ下げするが、その激しさ、感情を強調して見せている様子がよく分かる。
たしかに実際には体の動きとしてはそんなに顕著に上げ下げはしないだろう。
・客席に後ろ向いて芝居する場合、たとえば力弥が客席に背中を向けて、切腹しようとする判官にだけ顔を向けている場合、正面から見る際は力弥の背中でその気持ちを推し量っていたが、その表情がばっちり見える。
力弥の哀願するような、瞳で語りかけるような表情が。
芝居の中身がぐーんと濃くなった気がする。
・目の前の舞台で、実際に何かが起こっている、今起きている、それを目撃している、というリアルタイムな感覚に襲われる。
正面から絵のように美しい場面場面を見るのとは異なり、役者の頭上から、背後から、立体的に舞台を観ることができるためだろう。