その後の末路が分かっているだけにグッと来る
歌舞伎十八番
勧進帳 かんじんちょう
作者 三代目並木五瓶 ほか
初演 天保11(1840)年3月 江戸
あらすじ
源義経は兄・頼朝と不仲となり、弁慶、四天王たち家来を連れ、おのおの山伏と強力(荷物持ち)に身をやつし、奥州(東北地方)へと向かう。加賀国(現在の石川県)の安宅の新関で関守の富樫左衛門たちに怪しまれる。弁慶は本物の山伏であることを証明するため、機転を利かせ白紙の勧進帳を読み上げる。富樫は感服。だが番卒の一人がなお怪しむため、弁慶はあえて金剛杖で義経を打ち罵る。富樫は弁慶の気持ちに打たれ、無事通過を許す。
見どころ
歌舞伎の演目で人気投票をすればおそらくいつだって1位になる演目。安宅の関になぞらえて「またかの関」と言われるほど上演頻度も高い。勧進帳読み上げや山伏問答など、仏教用語が続く箇所はちょっとやっかいかもしれないが、人間関係やドラマ自体は分かりやすい。
最大のヤマ場は、弁慶が容赦なく義経を打つ場面。その様子に驚き、富樫自身が「疑って悪かった」と誤る。ここでつかまるか、無事奥州まで逃げ切れるか。弁慶にとって必死の作戦だった。富樫もそこまでする弁慶の心に畏敬の念を表す。三人の立場の異なる男たちに通う情にジーンとするはず。
おそらく富樫はこの責任をこの後問われるだろう。義経と弁慶もまもなく奥州で頼朝勢に襲われる。歴史上の人物にはそんな悲劇が待ち構えているからこそ、観ている方もグッとくるのだ。同名のこの長唄がカッコイイ。そのドライブ感に邦楽を聴きなれない人でもワクワクすること間違いない。
(その2へ続く)
五月歌舞伎座のチラシ |