歌舞伎/歌舞伎関連情報

今度の『小栗判官』は昼夜二部に。1(2ページ目)

国立劇場の3月の演目は、『当世流小栗判官』。「猿之助十八番の内」と銘打ってあるように市川猿之助一門の役者陣による中世の物語を基にしたスペクタクルとロマンにあふれる長編の舞台だ。

執筆者:五十川 晶子

●心揺さぶるゴシックロマン
とにかく、他の多くの歌舞伎作品とちょっぴり色合いが違うのだ。
隈取の可愛い荒事の作品や、華やかな長唄や常磐津の舞踊劇、七五調でスタイリッシュな黙阿弥作品・・・という江戸の年月と人々が練り上げてきた作品とは異なり、伝奇めいたというか、ゴシックロマンとでもいうか、土俗的な匂いのする「古い日本のドラマの原点!」という印象が強かった。現代人が補綴し監修し手を入れているはずなのに、だ。

特に、熊野を舞台とした「道行」「熊野湯の峯」の場は結構ショックだった。可憐な照手姫(てるてひめ)が、足の悪い小栗判官(おぐりはんがん)を車にのせて、何度も力尽きそうになりながら曳いていくその姿はインパクト大。そして直視してはいけないような、聖なるもの、不可侵なものを、その二人の姿に感じてしまった。

若い娘が牛車を曳いたり、笹を曳いたりという構図は、歌舞伎が好んで使ってきた題材というが、やせ衰えた重病の男を板に乗せて、非力の女がひたすら引っ張る・・・。日本のロードムービーの元祖とでも言おうか。

時代物の華やかさに、碁盤乗りや大立回り、宙乗りと、歌舞伎らしい観どころはたくさんあるにも関わらず、この物語の底の底に説教節の時代の匂いが流れていて、その匂いを損なわずに、かつ多くの見せ場をアップテンポで見せてくれるのが、この作品の最大の魅力かもしれない。

今回は猿之助は出演せず、一門の若手が中心となって、このドロッとした、かつファンタジックな小栗判官の世界を繰り広げていくのだから、また違ったテイストが加わるのだろう。


華やかな時代物スペクタクル・ロマン。
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