歌舞伎/歌舞伎関連情報

竹本葵太夫さんインタビュー1

歌舞伎といえば役者!についつい注目しがちだが、舞台の上手(向かって右)目をやると、おっとこんなステキな「語り手」が。今回は竹本葵太夫さんにインタビュー。

執筆者:五十川 晶子







語りで役者を支える
「でしゃばってはいけない。頼りなくてもいけない」と、竹本葵太夫(たけもとあおいだゆう)さんは語る。これが歌舞伎の竹本の本質ということらしい。
竹本(たけもと)とは、江戸時代に義太夫節を創始した竹本義太夫から取った名称で、歌舞伎で語られる義太夫節、あるいはその演者を指す。
通常、義太夫を語る太夫と、太棹(ふとざお)と呼ばれる三味線を弾く人と二人一組で、舞台上手の床(ゆか)で語る(出語り)。あるいはその上に設けられた御簾内(みすうち)で語ることもある。長唄など他の三味線音楽とは異なり、腹に響くような「ベーン」という太い音に、うなるような低い重い声が特徴。登場人物の心理や情景を、あるときは勇ましく強く、あるときは哀しく美しく語り分ける。
江戸時代前半、上方では人形浄瑠璃(現在の文楽)が大人気だった。逆に下火だった歌舞伎が、テコ入れのために人形浄瑠璃の作品を次から次へと歌舞伎の狂言にしたてて舞台にかけた。そこから生まれたのがいわゆる義太夫狂言だ。
『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』『菅原伝授手習鑑』の三大狂言はいうまでもなく、『一谷嫩軍記』『国性爺合戦』『妹背山女庭訓』など、現在でも上演頻度の高いジャンルの狂言なのだ。丸本・院本(まるほん)物、丸本歌舞伎などと呼ぶこともある。

文楽と歌舞伎で、太夫の役割はもちろん変わってくる。
「人形浄瑠璃が全盛のころは語りが主役でした。大夫の声が売り物で、浄瑠璃を聞きに行くと言っていたそうです。人形も今とは異なり、いわば挿絵のようなものだったようです。
歌舞伎に義太夫が取り入れられましても、お客さんは語りを聞きに行くのではなくて、俳優を見にきます。文楽なら大夫がそれぞれの役を全部一人で語り分けるわけですが、歌舞伎では俳優がセリフの部分を言います。なので竹本の役割は、物語の初めの状況説明や、役の心理、人情の機微を描写するのが中心となります」(葵太夫さん)。

歌舞伎ではあくまでも主役は役者。その役者を音楽的に引き立てることが、まずは竹本に望まれることなのだ。自分の中で戯曲や役割をよく読みこみ、その舞台のシンの役者の演出意図を理解し、咀嚼して語らなければならない。
たとえば文楽では、やはり大夫がその舞台をコントロールするある種司令塔のようなもの。歌舞伎では竹本はあくまでも「従」の存在。
だが葵太夫さんは歌舞伎の義太夫の「従」であることにこだわった。役者を中心に舞台を作っていく、それを「語り」という機能の面で支えている義太夫太夫に惹かれたという。
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